2021年6月25日金曜日

【特集】浅見ゆいここすきポイント

1 目 的
 私が浅見ゆいさんを知ってからもう5、6年になるけれど、最近ここすきポイントが溜まりすぎて浅見ゆいさんのことしか考えてなくて日常生活に支障をきたしてきたので、そろそろ一度思考の整理のために浅見ゆいさんの良さを文章化して落ち着こうという趣旨
 ついでに、これを読んだ人が浅見ゆいさんの出演作に触れたり、他のゆいズ(ファンの呼称)の皆さんが「俺は浅見ゆいさんのこんなとこが好きだぞ!」みたいなのを表明するきっかけにでもなれればいいなという思いもあります。

 ※注 釈
●章立ては「1→(1)→ア→(ア)」の順で降りています。
●作品紹介は基本的には「サークル名、発売年『作品タイトル』(補記)」の様式で、作品タイトルはリンクになっています。
●本文中では敬称略とさせていただきます。

2 とにかく声がいい
 声が良い。とにかく声がいい。
 印象としては、非常に透明感を感じさせる声の性質で、比喩で表現するならば流水や風、あるいは笛のような、穏やかでかつ引っ掛かりなく耳に入ってくる響きを帯びている。
 こうした声の質を軸に、滑舌や息の量、声帯の締め方により様々な声でお仕事をなさっている。どれも良い……

 (1) CM、ナレーションのお仕事
 私はあまり数を聴いてないので、やや偏っているかも。
 概して、暖かみがあり聴いていてホッとするような発声で、それでいてややハッキリと言葉を発するので文意も入ってくる。公式サイトの「works」から各CMのリンクがあるので聴いてみよう。サイトURLは後述
 すこだ……

 (2) 明るい少女(ハイティーンより上くらい)
 キャラクター設定としては、妹、恋人、お姉さんぶりたい年頃の娘等
 概して、高めの声にやや息の量を増やし、常になんだか楽しげに笑みを含んだような元気かつ滑舌の良い発声
 印象としては元気で明るく無邪気、親しみをもって聴き手に接しているような声で、一方いたずらっぽさやウザ絡みを演じるときはややゆっくり、声を低くし、息を増やして声年齢を上げてくるのも、愛らしいと同時にアブない魅力がある。
 すこだ……
 ア Butterfly Dream、2017『癒しガール -ruriko-』 

 (3) 大人しい少女(ローティーンくらい)
 ロリっぽいキャラクターのことであって、必ずしも設定年齢が幼いという意味ではない。
 概して、声年齢は幼く、対照的に喋り方は遠慮がちにとつとつと、口の開き小さく話すような発声
 消え入りそうな小さな声は抱き締めてやりたくなるような愛らしさ。
 すこだ……
 ア Butterfly Dream、2016『癒しガール -sayuki-
 イ 作・伊月はる、演・浅見ゆい、藤堂れんげ、『秋雨の降る庭』(声の劇を主体にしたSNS「ボイコネ」上の朗読劇、会員登録したりアプリ入れたりしろ)

(4) 低い声のお姉さん(ドS、病み系)
 全人類聴くべき無形文化財、浅見ゆいの発声はどのタイプであっても素晴らしいけれど、私はこのタイプが最も好き。最ここすきポイントと言える。聴いていて最も心を揺さぶられる発声でめっちゃゾクゾクする。
 特長の1つは、他の発声のキャラ付けに比して顕著に声年齢が高くそのギャップが大きいために、聴き慣れた声でありながらも知らない一面が突如あらわれたような気持ちになるため。また、途端に余裕ありげになるため、一挙に精神的優位を取られ、主動性を奪われる。
 もう1つの特長は声質によるもの。浅見ゆいは演技の発声においては、声帯の震えを局限した、肉体を感じさせない声であることが多い。これは多分意識的な発声の采配だけでなく、声帯の構造上の特質でもあって、恐らく例えば浅見ゆいは高めの声で単に声を張り上げても音圧はさほど強くならないことと思う。(私は声について体系的な学びをしていないので、あくまで推測です。)そんな、引っ掛かりの少ない声帯で低い声を出す際は、必然的に息の量を増やすことになるので、発される声は息を多く含みかつ他のタイプの声よりはるかに音圧が強く、めちゃめちゃ鼓膜を震わせてくる。
 こういう演技のときしか声帯の振動を感じることがないのでレア感もある。
 これらの特長から、私はこのタイプがイチバンここすきです。多作な浅見ゆい主演作の中では比較的供給が少ないタイプなので、私は常にこれに飢えています。
 すこだ……
 ウ 毛ガニデパート、2020『アラビアンナイト』 

 (5) 普通のお姉さん
 このタイプやってる浅見ゆいを知らない奴いねェだろ。涼やかで良い声です。すこだ……
 聴いてみろ、飛ぶぞ。
 ア 彼岸花と無口少女。、2016【耳かき・催眠音声】同棲彼女との耳かき生活』 
 イ ディーブルスト、2016『Cure Face2-美菜【再編集版】』 
 ウ 添音亭、2015『世話好きな彼女。』 
 エ とみみ庵、2014『縁側でまったり耳かきとお昼寝

3 感情に殴られる演技力
 浅見ゆいはどんな役やってもうまい。ちゃんと「この人物はこの場面ならこういう心の動きをしている/するだろう」という予期に即した声を出す。列挙を本気でやると聴いた作品全部のここすきポイントを書くことになるので焦点絞る。

 (1) 泣きの演技
 浅見ゆいの泣きの演技、マジでこっちが泣く。「少し悲しくなって涙をこらえている」レベルのときは、声帯を締めて少し声をひずませる感じで、胸を締め付けられる。いよいよもう「身も世もなく泣きじゃくる」レベルになると、鼻声としゃくり上げで乱れる呼気が痛々しく、聴いてる我々ももらいギャン泣きしちゃうってワケ。

 (2) 冷たい演技
 低音と同じくこれもあまり例がないのだけど、浅見ゆいの冷たい女の演技はマジで最高だから全人類聴くべきだとされている。[独自研究]

 ア はすっぱな女
 ちょっとヤンキーっぽい女の役のときは、全体的に放り投げるような喋り方で、特にキツいセリフのときは本当に唾棄しつつ吐き捨てるような演技をする。この種の演技のときの白眉は、少し鼻から抜けるような含み笑いと、要点でドスを効かせるところ。
 真に受けて聴くと、本当に軽蔑され、見下されている気分になって、実に心胆寒からしめる威力がある。
 (ア) 癒し庵もち猫、2019『【34分収録/100円】近所のギャルお姉さんはいつも僕を甘やかす【バイノーラル/耳かき】』 (これはむしろ甘いお姉さんでキツいセリフはないけど、貴重なギャルなので挙げておきます。)
 (イ) 永遠の文芸部、2015『300年ぶりの地球に、泣け』(ノベルゲーム。やれ。)
 
 イ 人を寄せ付けない女
 これは演技というよりは脚本寄りの話だけれど、好きだから入れちゃっていい?いいよ。
 浅見ゆいの硬質で人間離れした声で、人を突っぱねるようなセリフを吐かれると、本当に取り付く島のないような絶望的な気持ちになれる。
 こうしたタイプの演技は、日頃聴き慣れた暖かい演技とのギャップもあってすごい衝撃力がある。だから浅見ゆいは実はドMにもオススメできるンだわ。各位は傾聴よろしくな。
● 作・ひよこ大福、演・浅見ゆい、殊座『10,911m』(ボイコネ)

3 活動者としてもアツい!
 浅見ゆいは声活動を主軸にしつつ、隣接分野の活動もやっている。色々な側面があるとファンは接する機会が増えるので単純に嬉しいものだが、加えてどの活動においても浅見ゆいご本人のこだわりとホスピタリティが感じられてこれもまた嬉しい。ので、各種活動の紹介をしつつ、ここすきポイントを述べる。

 (1) “良い音”探求者
 浅見ゆいを知る人の大多数の参入経路は、多分耳かき音声系の作品からだと思う。
 話が脇道に入るが、こうしたシチュエーションボイス系の制作においては、声は声優が提供し、効果音は制作者・サークル側が付与するのが基本的なスタイルであり、声優が実演するのは例外的な作例だ。
 浅見ゆい主演作品の多くもこの一般的な形式だが、浅見ゆいご本人も“良い音”の探求者であり、そんな浅見ゆい謹製の“良い音”を聴きたければ、まずばYoutubeへ行け。

 ここすきポイント
 ア 乾燥・硬質寄りの音
 イ 粘度低めの水の音
 ウ 広がりのある摩擦音

 これらは聴き手の好みの話でもあるけれど、上記の系統の音に強いので、これらが好きな人には掛け値なしにオススメ。声有り(トーク)はもちろん、声無しでも全然楽しめるので、とりあえず全部聴け。

 (2) サークルの活動
 浅見ゆいは個人サークル「Butterfly Dream」としても活動しており、主としてシチュエーションボイス・ボイスドラマ系統の作品を頒布している。
● 浅見ゆいOfficial site「Butterfly Dream

 ここすきポイント!
 ア 臨場感にこだわった効果音
 聴き手を取り巻く音(環境音のみならず動作に伴う音も)を多用することで、単に語りかけられる以上の臨場感をもって聴くことができ、作品世界に没入できる。
● Butterfly Dream、2019『彼女とほかほか温泉旅行』 

 イ 人と人の交流を重視した脚本
 「Butterfly Dream」は、題材が近親者(恋人や親類)であっても職業人であっても、単に行為によって癒やすに留まらず、人と人の交流を感じさせる脚本により心から暖まるような話を書く。特に語り手の人物をきちんと固めて作っていて、そこが少しずつ提示されていくところが妙味
 それは例えば、琴音においては慎重な自己開示として、紗雪においては秘めた憧れとして描かれていて、これによって聴き手が自然と語り手に対して興味を引かれるような構造になっている。
 もちろん登場人物は皆優しく、なにより誠意がある。
 (ア) Butterfly Dream、2016『1日限りの貴方のメイド
 (イ) Butterfly Dream、2016『癒しガール -sayuki-

 ウ 同業者を呼んでのオリジナルドラマ
 『Reposer』シリーズな。これはまだあまり聴き込んでいないので内容についてはまた別の機会に。
 藤堂れんげさんを筆頭に、共演の多い声優さんがたくさん登場、そして浅見ゆいが描く女たちの群像劇!たぶん相当イキイキと執筆したんだろうなと思える出来映えで、なんかもうこういう作品を個人サークルで出してらっしゃるということ自体がもう無性に嬉しいのである。(その報告いる?)
 (ア) Butterfly Dream、2018『Reposer ~優子・瞳・香乃~』(出演・藤堂れんげ、藍月なくる)
 (イ) Butterfly Dream、2018『ReposerII ~怜・美咲・瞳~』(出演・藤堂れんげ、hana10、ユキト)

 エ Ci―enの特典
 「Butterfly Dream」はCi―enでもファン向けの特典を多数展開している。
 リスナーから募集したテーマで10分程度のトークをするラジオ風音声『バタフラジオ』(時々ゲストもいる)、近況報告や活動の見通し等を喋る『フリートーク』等が毎月あって、月500円を払うだけで、これらが無料で楽しめちまうんだ!
 入ろうな。
● Ci―en「Butterfly Dream

 (3) 配信者としての企画力
 ニコニコのユーザーチャンネル「浅見ゆいのドリームチャンネル」では、必ず週一回、金曜22時から1時間の配信をしている。毎週違ったことをやっていて飽きない。

 ここすきポイント!
 ア 雑談と企画のバランス
 無企画の雑談でも人は呼べるだろうに、頻繁に何かしらの企画やテーマを準備してくれる。新開発の良い音の発表や、ぬり絵・ジグソーパズル等
 時折、企画そっちのけで雑談に熱くなっていることもあり、これはこれで推せる……
 イ 地声っぽさと豪快な笑い声
 もうとにかくこれが本当に本当に本当にすき。これ聴くために会員登録してる。みなさんもね、これ好きでしょ?(同調圧力)
 昔のYoutube動画で「清楚なのは台本上の演技なので幻想は捨てろ」と言ってたり、Twitterアカウントが「声だけは浅見ゆい」だったり、素の自分は清楚キャラではなくむしろうるさい女だと度々表明している浅見ゆい。配信ではそんな「うるさい浅見ゆい」が思う存分聴けるぞ!
 私は特に、コメントを受けて納得又は話を広げるときの起点になる「あ゛ー」と、何かマズいことを表明するときの「○○なんですよね〜ヘッヘッwwwヘッハハハハwwww」みたいな雪崩式の笑い方と、何かがツボに入ったときの豪快な「ハッハッハッハwwwww」(ゲラ笑い)あたりがすき。浅見ゆいの笑い声は健康に良くて、これを聴いてるから俺は風邪引かないんだわ。
 演技してる清楚声優の浅見ゆいとはまた違った、ハチャメチャ快活浅見ゆいを味わえ!

 (ア) ニコニコ生放送「浅見ゆいのドリームチャンネル
 (イ) ※ゲラ笑い参考、『うみがめのスープを飲む!』(ゲスト・江井みゆき)(YouTube)
 (ウ) ※ゲラ笑い参考、Butterfly Dream、2021『浅見ゆい・江井みゆきのわくわく!温泉エンジョイ旅

4 終わりに
  というわけで、これが俺の浅見ゆいさんのここすきポイントやイチオシの関連作品なんだけど、どう?(どうとは?)
 紹介しきらんかった作品・サークルさんもたくさんあるんだけど、それらはまた別の機会に。まあガチで書いたらただの浅見ゆい全出演作リストになってしまうんですが……

 まだ浅見ゆいのファンじゃない人が作品に触れる気になってくれていれば幸いです。
 また、ゆいズの皆さんのここすきポイントも聞きたいので、Twitter等でそれぞれに浅見ゆい普及工作を展開していただけると嬉しいです。

 最後まで読んでくださりありがとうございました。てか、詳細に長すぎてちょっとキモくない?

 〜おわり〜

 ○ おまけ
 Twitterではたまにクソ診断メーカー(褒め言葉)で生成された文字列を読んだりする「浅見ゆいご乱心シリーズ」を投稿してくれる。
 ここもうるさくてすき。
 聴こうな。

2021年5月30日日曜日

【感想】浅見ゆい、2016『1日限りの貴方のメイド』Butterfly Dream

1 概 説
 『1日限りの貴方のメイド』は、ネットを介してフリーの声優として活動している浅見ゆいが、個人サークルとして制作した第一作
 シチュエーションボイス・ボイスドラマ系統の作品
 「とある懸賞で、特賞である「メイド1日派遣コース」に当選した貴方。/琴音と名乗るメイドに、1日お世話をしてもらうことになりました。/貴方が1日をリラックスして過ごせるよう、琴音は誠心誠意、お仕えしてくれます。」というストーリー。(作品販売ページより引用)
 以下、私が特に好みだった点を、作家性、音へのこだわり、声の性質の観点から述べる。なるべくネタバレなし。
 作品販売ページへのリンクは記事末尾


2 作家性
 本項では、作品から感じられるサークル「Butterfly Dream」及び浅見ゆいの作家性について、私が特に好ましく思った、ストーリー、キャラクター及び主人公の性格の3つの点を述べる。

(1) ストーリー
 懸賞で1日メイド派遣に当選!ひと昔前のアニメかギャルゲみたいな導入ながら、こういうシンプルで強引なのがイチバン良い。なぜならメイドさんに突然押しかけられるというのは全人類の夢だから。『Glare 1 more』もそうだっただろ。
 筋としては、なんでもない休日を過ごす、そこにメイドさんがいる、というもので、大きなトラブルも気を揉むような事も起きない落ち着いた一日
 押しかけメイドさんと過ごすという非日常を、過剰に飾り付けることなく演じることで、寝る前や休日に適した落ち着いて聴ける作品になっている。

(2) キャラクター
 浅見ゆい演じるメイド・琴音の性格及び言葉遣いが非常に練り上げられていて、あらゆる面でストレスがない。
 まず聴き手に対する呼称が良い。“ご主人さま”でなく“旦那さま”と呼ぶ古風さ。
 言葉遣いは丁寧ながら過剰な敬語でもない。本当にちょうどよく背中がムズムズするような、自分でも知ってはいるけれど口に出したことのないことばがスラスラ話される。
 多分これは脚本のみならず添削の業前でもあると思うが、ことば選びも滑舌も滑らかで堅苦しくなく聴いていて気持ちがいい。

(3) 主人公の性格
 作中の主人公(聴き手)は一般人のようで、使用人が家にいるという状況に慣れていない。だから琴音に対してもとても丁寧に接しているらしい。相手を知り互いに信頼し合うためには会話が大切だと言い、何も頼む用事が無ければ一緒に本を読むように頼む。
 ここでは主人公は、単にメイドさんに奉仕してもらうのみならず、琴音の人となりを知ることや同じ時間を共有することを企図している。
 そんな優しさが最終的に琴音の心を動かす優しく美しい物語で、めっちゃ和んだ。

(4) 小 括
 総じて、丁寧なことば選びをベースに、人の優しさと美しさに彩られたストーリーで、安心して聴ける作品
 単にシチュエーションや行為自体によって癒やすのではなく、人と人の交流として描くことで満足感を高めている。
 これはButterfly Dreamの作家性なんだろうと思う。


3 音へのこだわり
 美しすぎる声に気を取られがちだが、本作は効果音へのこだわりも著しい。身体の動きに伴う音、周囲の環境の音等により状況を想起させるための工夫が凝らされている。
 本項では、効果音と声の扱いによる状況描写を焦点に語る。

(1) 効果音(生活音)
 本作の第一声ならぬ第一音は、日常に不意に割り込んでくるインターホンの音、そしてドアまで歩いていく主人公の足音はスリッパのペタペタ音から、外履きに履き替える音までが丁寧に描写される。
 全編がこの調子で、衣擦れ、足音、本をめくる音、スマートフォンのタップ音等どれをとっても自然で心地よく、声優でありながら「良い音」への尋常ならざるこだわりを持つ浅見ゆいの職人芸が炸裂している。
 流石、YouTube投稿動画の第一作が『【ASMR】本のページをめくるだけ(声無し)』なだけある。

(2) 効果音(食事)
 一日中メイドさんがいるということはその間当然食事を摂る。メイドさんがいるんだからそれは手料理で、献立はオムライスと相場は決まっている。決まってんだよ。
 一方、浅見ゆいは「咀嚼音は嫌いなんですよね」、「クチャクチャする音がダメ」と明言しているので、ここがどう表現されるかはファンの関心事項だった。だったよな?そうだろみんな。
 本作では、オムライスとクッキーが供される。
 オムライスは咀嚼音を挿入することなく、スプーンと皿の触れる音及び琴音のセリフによって“せっかくのごちそうに喜び勇んで食らいつく様子”が表現される。
 クッキーは噛み砕く際の小気味良いボリボリ・サクサクまでの音が添えられ、食感を擬似的に楽しむことができる。
 食べ物の実物が目の前になくとも音でその輪郭を感じられるよう、聴き手の需要と作り手のこだわりを踏まえてよく吟味して選んだ音だろう。すごい……(語彙力)
 加えて「ああ、本当に自分の好きな音で好きな作品を作っているんだな」と思えるので、ファンとしてもとても嬉しい。

(3) 声の距離感
 琴音はフットワーク軽くまめまめしく働く人で、しかも人に対して物怖じしない。そのあたりが声の距離で表現されている。
 冒頭から、主人公のスマートフォンを覗き込んですぐ隣に立って聴き手を驚かせたり、何か仕事がありそうだと思ったら歩み寄ってきたり、足音と近付く声からそのかわいらしい仕草が目に浮かぶようで、音の表現力を最大限活用しようとしている作者の業を感じられる。

(4) 小 括
 私は作品を購入した当初は、浅見ゆいの声ばかり聴いていたけれど、その後作者問わず多くの音声作品を聴いて経験値を溜めたことで、この作品の音の奥行きに気付けるようになった。
 全編を通して、音による状況の描写に工夫が凝らされていて、聴く度に楽しめる仕上がり。


4 声の性質
 浅見ゆいの声が良い、というのは言うまでもないけれど、そのどこに“良さ”を見出すかは聴き手各人の好みに依るところなので、私の好んでいる点を上げ、それが作品に与えている影響を述べる。

(1) 爽やかな声
 私はなんと言っても、浅見ゆいの中音域の透き通るような肉体を感じさせない人間離れした声が好きだ。よく、スッキリしている様を形容して“水のよう”などと言うが、浅見ゆいの優しい声色でありながら湿っぽいところのない声は、それを超えて“風のよう”だと私は言いたい。
 琴音は結構距離感近く喋りかけて来る人ながら、こうした声の質ゆえにいやらしさがなく、健全で無邪気な印象になっている

(2) 感情の乗った演技
 もう1つ私がたまらなく好きなのは、浅見ゆいは声に人物の感情を乗せることがハチャメチャに上手い点
 本作で言うと、終始明るく楽しげで、主人公の提案を拒むときも頑なすぎず、かつ慌てている様がよく表現されている。声から表情や身振り手振りまで見えてくるよう。
 一番の白眉はなんと言っても、ラストで琴音が気持ちを吐露し主人公に“ある提案”をする場面だ。ここでは実に複雑な感情が、声の使い方によって表現されている。
 心情を吐露することへの躊躇い、自分自身の気持ちと職業意識の狭間での困惑、望ましくない展開を想像しているときの悲しみ、そしてそれらを踏まえた提案を伝える際の意志の強さと、その返答を待つ間の不安……
 比較的長めの一連のセリフによって、健気な言葉と流動する感情を楽しめる場面で、ここの演技力は本当に稀有な水準だと思う。
 私など神経が細いので、セリフを聴きながら我が事のようにメチャメチャハラハラしてしまった。


5 総 括
 総じて、浅見ゆいという人の強みが多く現れた作品
 優しい声と物語を求める聴き手の需要をよく理解しつつ、ご本人の好みの音に強くこだわり、抜群の演技力をもって演ずる。いろいろな魅力が総合的に最大限発揮されていて、個人サークル1作目とは信じ難い高水準の完成度となっている。
 こんな素晴らしい、爽やかで優しく、心配りの行き届いた作品がたったの660円で聴くことができるのは、とてもありがたい。逆にむしろ詐欺だろ。(?)

 というわけで、正統派で古風なメイドさんにお世話されてェ〜と思ってるヤツは買え!買って聴いてレビューを書け!癒やされろ!浅見ゆいさんを推せ!

1日限りの貴方のメイド Butterfly Dream https://www.dlsite.com/home-touch/work/=/product_id/RJ182623.html

 やっぱ全人類聴け。言い訳は聞きたくない。
 私からは以上、質問・確認事項は私のツイッターかコメント欄まで。