2020年1月12日日曜日

Glareシリーズ覚え書き、その1、Glare(Glare1more)


1 Glare(及びGlare1more)
  Glare、というPCゲームがあります。あるので、今日はそれについて書きます。(情報量ゼロの前置き)

  フリーゲームのGlareには全年齢版とえっちシーンありの18禁版があります。それぞれ作者サイト「クレナイブック」でダウンロード可能です。
  そのリメイク作品であるGlare1moreはSteam並びにDLSite及びDMMで発売中です。DLSite及びDMM版はAndroidで動かせるため、スマートフォンでもヒロイン・グレアさんの姿が拝めます。買いましょう。私は先にSteamで買ってからそれを知ったので2回買いました。
 
2 導 入
  ある日、主人公(あなた・プレイヤー)の元に大きく重い段ボール箱が届く。その中にはまっしろい肌の少女が詰め込まれていた。なにやらホラーっぽい導入。
  機械的な駆動音と電子音を鳴らしながら動き始め、「ああ、私は製品として売られたのですね……」と悲しげに呟く彼女の名はGlare(グレア)。人間ではなく、ある企業が作りだしたメイドロボだった。しかし主人公はメイドロボを買った記憶はなく、グレアもまた送り出されるに至った経緯を知らない。なぜ主人公の元に届けられたのか、その謎を探るために、一時的に主人公を「ユーザー」として認めてくれるという。
メイドロボであるグレアは、単に家事を遂行するだけでなく、インターネットに接続して、検索やネットショッピングをすることもできる。グレアと会話しながら、謎を解き明かせ。でも変な(えっちな)ことしたらユーザーを殺して自分も死ぬってさ!というのが一作目のストーリー。

3 ゲームシステム紹介
 本作品はジャンルとしてはADVゲームですが、よくある選択肢式ではなく、『ポートピア連続殺人事件』に代表されるような単語入力式です。これが、検索機能を備えるメイドロボ・グレアさんへの入力であり、あるいは会話の取っ掛かりとなります。例えば、当初グレアは自分を送り出した企業のことを「弊社」と表現していますが、「弊社」と入力すると、グレアさんが「弊社」とは「ユウロピウム社」という企業だと語ってくれます。
 会話の中で登場したワードを入力し、検索又は問いかけとすることで、徐々に謎がほぐされていくのです。
 (以下、作品の核心に関するネタバレ)



4 あらすじ
 最初の謎は、グレアがなぜ主人公の元に届けられたのかというもの。しかしこの謎はすぐに解き明かされます。グレアは、主人公がある日回答したアンケート、その御礼の「粗品」として届けられたのでした。説明書きと返送表も封入されるはずが、手違いでグレア単体が届いてしまいました。
  しかしグレアはそれに不服そうです。なぜならグレアは、最新技術の粋であるナノコロナという技術を用いて作られた、ユウロピウム社の最新鋭ナノシリーズ(この世界におけるアンドロイドのうち、ユウロピウム社の技術で作られたものを指す商標)のはずだからです。
 ともあれ、やはりグレアは主人公のためのメイドロボとして送られたことが分かり、グレアも一応主人公をユーザーとして認めます。それでも、グレア自身が主人公をユーザーとしてふさわしくないと感じたときには即座に出ていくと言います。どうもグレアは、ただの家事補助のための家電でいるには、人工知能が複雑すぎる模様。ただ知らない人のところに売られて生涯使われるなんて、まっぴらごめんだという態度。
 しかし主人公は、いざとなったら出ていくだの自爆するだのと脅すグレアをそれほど引き留めようとはしません。グレアは主人公に「私の永遠のユーザーたる証明をしてみせろ」と挑戦的な言葉を告げ、微妙な緊張感を孕みつつ、グレアとの同居生活が始まります。

実はここから、「謎」を巡る主客転倒が起きています。本作はいわゆる「信頼できない語り手」のような構図になっていて、作中の主人公にとって当たり前の知識が、グレア及びプレイヤーにとっては霧の中にあります。
  グレアは、掃除はそこそこできますが、主人公がリクエストした料理を作ろうとしても、レシピがメモリに入っておらず困惑します。メイドロボとして製造されたにしてはお粗末な性能です。検索機能を使ってレシピを調べ、通販で食材を注文しチャレンジするも、出来上がったのはお世辞にも上手とは言えない食べ物。家事をするための製品であるはずの自分の存在意義と、不甲斐ない実際の性能の乖離に涙するグレア。粗品扱いは、このひねくれた性格と、性能不足という欠陥のせいかと悩みます。

  グレアはある日『ムーンプリズン』という一冊の児童書を読みます。昔々あるところに、ロゼという小国のお姫様がおりました。彼女は過保護に不自由に育てられていました。ある日、プルケという少年が、城の外壁修理に来たお父さんについてきて、ロゼと出会い、たった一日限りの親友になります。月日は流れ、その不自由さからロゼの性格は歪んで、人を恨み人に恨まれる子になっていました。その報いから、呪いによってロゼは月の光の下から出られなくなってしまいます。嘆くロゼ。そのことを知ったプルケは、ロゼを助けに行きます。呪いを解くことはできませんが、ロゼとともに月の光の下に閉じ込められても構わないと、祈るプルケ。すると、プルケの思いが天に通じ、ロゼとプルケは月の光の外に出ることができました。そして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ……。

 グレアの胸に、言いようのない空白感が生まれます。プルケはなぜロゼのためにそこまでできたのだろう。ほとんど他人であるロゼのために。ほとんど他人であるロゼをそこまで大切に思って……。
 ひねくれた自分のことを大切にしてくれるような「プルケ」と結ばれたい。グレアの中に、家電としては分不相応な想いが生まれます。それが分不相応なことも、グレアにはわかっています。やっぱり自分は欠陥品だと、彼女は自分を責めます。

 『ムーンプリズン』の世界を痛く気に入ったグレアは、ある日ユーザーにわがままを言います。
 「月、見に行きません?――そうです、月が見たいのです」
 返答に迷う主人公。それは無理だと答える。
 「無理」という返答に納得がいかないグレアは月齢を検索します。月は毎夜出るのだから、無理なんてはずはない。

  そしてグレアは、自分の知らなかった世界の真実を知ります。
 この世界には2つの月があること。本来の月と、人工衛星「セカンドムーン」。そして、自分たちのいる場所は地球ではなく、地球の人口問題を解決するためにユウロピウム社のナノコロナ技術で作り出された人工惑星「アクアブルー」――「2つ目の地球」であること。
 グレアの知る限り、ユウロピウム社にそんな技術はないはずでした。自分の知るより、そして自分自身より遥かに進んだ技術水準、それを隠していた主人公の思い。
 グレアは気づきます。この世界において、自分は欠陥品どころか骨董品であることに。主人公は、自分自身を最先端メイドロボであると信じているグレアが傷つかないよう、そのことを隠していたことに。
  あまりにみじめ、あまりに情けない……。グレアはもう、自分自身の存在理由を見いだせませんでした。
  「こんな私なんて!!消えてしまえ!!」――

 ――主人公の前には、自分で自分をシャットダウンしたグレア。再起動のためにはパスワードが必要になるが、主人公はそんなものを設定した記憶はありません。グレアはグレア自身でパスワードを決めて、己を閉じ込めてしまったのです。
  グレアの心を開くためのパスワードは?

  思い出すのは、これまでの日々。短くて曖昧だけれど、お互いに手探りでお互いを知ろうとしていた。初対面の挨拶、謎解き、一緒に料理をしたこと、テレビを見たこと、ペンギンに目を輝かせていたこと、本を読んでいたこと、誰かと……プルケと結ばれたがっていたこと。
思い当たる単語は――

 「なんでこんなわかりやすいパスにしちゃってるんですかね私……
まるで、解除してほしかったみたいじゃないですか……」

  再び目を覚ましたグレア。無理やり彼女を起こした形になった主人公は、彼女を誘います。月を見に行こう、と。

 グレアにとっては初めての外出。初めて見る外の世界。初めて見る月。
でもそれは人工衛星「セカンドムーン」。偽物の月。月の光の下で、グレアは主人公に吐露します。結局自分は骨董品、自分は自分が信じていたほど最新ではなく、現代の水準には遠く及ばない性能であること。家電として考えれば、粗品どころか粗大ごみも同然。自分にはなんの価値もなく、ただ迷惑なだけではないかと。閉じ籠もったままにして、返送してくれればよかったのだと。
 閉じ籠もったグレアの心に押し入った主人公は、ぼくはプルケだ、とグレアに語ります。

偽物の月の光の下で、グレアは自分自身の本当の気持ちに気づきます。自分は家電の本分を果たすべく、人から愛を向けられることを嫌がっていた。けれども一方で、自分を大切にしてくれる、一生のユーザーを求めていたのだと。
こんな骨董品になってしまって、叶わなかったはずの夢が、いまここにある。
あなたはプルケ、私はロゼ――

~~~

数日後、二人のもとにユウロピウム社からの封書が届きます。説明書きと返送表。
説明書きによると、グレアは昔のユウロピウム社が作り出した、世界で唯一の「人工知能」を搭載したアンドロイドだとか。彼女は人間の脳を人工的に作り出して搭載した最初で最後のナノシリーズ。しかしその研究は倫理的な波紋を呼び、製品化は凍結、グレアは起動されることなく、長らく開発グループだけが知る場所に隠匿されていた。研究者たちの死去に伴い発見されたものの、国はユウロピウム社が財産として持つことを許可せず、個人への譲渡という形でのみ、グレアの存在を許した。
人間に近づきすぎたために存在を許されなかったグレア。家電製品として世に出ることも許されず、目覚めたときには時代遅れになっていた。

それでも、今のグレアには、彼女を大切に扱ってくれるユーザーがいる。生い立ちがどうであっても、もうそれは関係のないことだった。

偽物の地球の、偽物の青空の下で、グレアはまたわがままを言ってみる。それでもやっぱり、本当の地球に行ってみたい。いつか、二人で。

Glare2に続く。



5 解 釈

  高校生くらいのときにちょっと手を付けて難しくてやめた思い出のゲーム。メイドロボという概念が当たり前過ぎて気にならなかったけど、グレアさんかわいすぎません?


  グレアさんの葛藤は健気で、見ているこちらもなかなか胸が痛みます。

彼女の身体と脳は、ユウロピウム社が開発したナノコロナという未来のすごい技術で作られていて、ナノコロナが生み出されて以降は、ナノマシンによって有機物と無機物を融合させたような新素材が次々に生み出されています。そうしてできたユウロピウム社製のアンドロイドが「ナノシリーズ」ですが、作中の世界では「ナノシリーズ」という単語はかなり一般化していて、他社製品のアンドロイド全般も広義で「ナノシリーズ」と呼ばれます。ホッチキスやバンドエイドみたいなもんですね。

  しかし、グレアさんはその中でも特別製です。彼女は、人間の脳をリバースエンジニアリングしたもので、作中ではこれが狭義の「人工知能」であり、それはつまりグレアだけです。他のナノシリーズはここまで人間的な考え方はしません。

  身体はどこまでも人間に近く、思考も人間のそれと大差ないわけですから、彼女は実質人間なわけです。



  しかし一方で、彼女自身は自分のことをあくまで「家電」だと思っていますし、彼女(の人工知能)を生み出したとき、世の中の方も彼女を人間であるとするのか、単なる家電であるとするのかの判断を保留したと言えるでしょう。だから、人工知能は世に出ること無くただ単に封印された。



  彼女を家電たらしめているのは、その信念です。だからこそ、人間の少女に対して向けるような愛情を向けられることを、来たときから彼女は拒絶します。しかし彼女の家事能力は控えめに言ってポンコツで、通販中に自分の食べたいお菓子を勝手にポチったりもしますし、テレビでペンギンの赤ちゃんを見てはかわいいかわいいとはしゃぎます。人間やんけ。

  アイデンティティを確立できない家電は、しかし主人公がユーザーとして振る舞い続けることで、ようやくアイデンティティを承認され、安心を得ることができました。

私が思うに、Glare1moreは、グレアが家電になるまでのストーリーであって、決してロボットが人間になる話ではないのです。家電メイドはユーザーを得てようやく存在意義を抱いて、誇りを持ってお仕事に励めるようになるのでした。めでたしめでたし、と。

  そして立派な家電メイドになるスタートラインに立ったグレアと主人公の物語はGlare2に(正確にはその間に番外編の「Glareヨ」に)続きます。

0 件のコメント:

コメントを投稿