アイカツ!のスペイン料理を精読する(110話編)
アイカツ!あかりGenerationといえば紅林珠璃、紅林珠璃といえば料理が得意なキャラなわけですが、本稿では彼女が作るスペイン料理について考察してみたいと思います。
1.紅林珠璃とカミーノ・セリオ
ベネディクト・アンダーソンは言いました。「国民国家」とは近代に入ってから(主として言語の共通性によって束ねられることで)生み出された「想像の共同体」であると。(初手白銀リリィ芸)(→wikipedia「想像の共同体」)
良くも悪くも、国家とは、もとは小さな共同体や教会を中心とした地域社会だったものを、「公定ナショナリズム」によって束ねたものなので、その中身は地域によって様々であることが多いです。現代日本を例にとっても、東京と京都、東北と九州ではまったく風土が異なる。あるいは戦前の沖縄では悪名高い「方言札」があったように、こうした地域的なナショナリズム(ここでは、例えば琉球語)を、国家的なナショナリズム(同様に「標準語」)で抑圧したり吸収したりしながら、国家というものは成立しているわけです。
というわけで、やはり「スペイン料理」と一口に言っても、本来はスペインの各地域ごとに料理の雰囲気は様々です。
「国民国家」(nation-state)の成立という観点から言えば、「近代」とは、フランス革命の始まりである1787年かバスティーユ牢獄襲撃の1789年以降ということになりましょうか。ナポレオン率いる国民軍が、「愛国心」による紐帯で結ばれていたことや、その軍事的脅威に接していたドイツが、のちにビスマルク主導で帝政ドイツとして束ねられたことは有名ですね。
帝政ドイツ以前のあの地域は領邦国家、まあ日本で言えば幕藩体制のようなもので、個々の領邦国家と、フランス全土が一体となったナポレオン軍では、彼我の戦力差はあらゆる面で明らかでした。こうして一度はフランスの侵略を受けたドイツ地域でナショナリズムの高まりが起こり、文化・言語的な面から「ドイツとはそもそもなんなのか」ということを問うムーブメントの中で編纂されたのが、ドイツ各地の民話を収集した『グリム童話』です。
これもまたご存知の通り、アイカツ!3期のロマンスドレス時代には、グリム童話由来のモチーフが多数登場するので、こうした世界史的な流れはもちろん興味深いのですが、それは今回は主題ではないので忘れましょう。(ここまで全部本論に関係ない)
スペインの歴史について、アイカツ!に関係のある時代だけ述べるなら、16世紀始めから近代の直前までのスペイン帝国最盛期が注目に値します。このころ、スペイン帝国はアメリカ大陸やフィリピンなどに出張っていってあちこちの文明を滅ぼし征服した(この「征服者」を指す言葉が「コンキスタドール」です)ので、それが141話「ホットスパイシー・ガールズ!」のメキシコ料理のくだりや、149話「ふぞろいのカラーたち」のフィリピン系デザイナー・ムレータ淳朗の話に反映されています。(紅林珠璃とエンシエロ篤はコンキスタドーレスなのかもしれない)
しかしスペイン帝国は近代の始まりと入れ替わるように徐々に衰退してゆき、第一次大戦こそ中立で乗り切ったものの、その直後にはスペイン内戦が勃発、1939年に集結したものの、国土は大打撃を受け、それから1975年まではフランコ将軍による独裁政権下にあったのでした。で、1978年に現行のスペイン1978年憲法が制定されて、今の体制が出来上がった。
紅林珠璃のパパであるカミーノ・セリオが生を受けたのは、こういった国でした。
えっ……かわっ……かわい……ええ……(絶句) |
珠璃の初登場が2014年11月20日(最速放送と劇中の日付がリンクしていると考えた場合)で中学1年生。珠璃の誕生日は7月31日ですから、このときは13才ですね。逆算すれば、珠璃が生まれたのは2001年の7月31日。(「アイカツ!世界2013年がメッチャ長い問題」は今は忘れてください。本来はアイカツ史学で使われる「いちご暦」を採用したほうが精緻化できるのですが、そうすると今度は現実との折り合いがつかなくなるので……)
『アイカツ!』のオトナは全員年齢不詳ですから、カミーノ・セリオの年齢もまたわかりませんが、まあざっくり言って、生まれは70年代(結婚・出産時30歳くらい)から80年代初頭(結婚・出産時20歳くらい)と言ったところでしょう。フランコ体制末期のスペイン国内の雰囲気は存じませんが、後継者の暗殺などもあったわけですから、それなりの文化的混乱はあったのかなあと推測します。
フランコ体制下では、「スペイン」という単一のナショナリズムを掲げるために、それなりに文化的な締め付けが図られていて、多様な色彩を持つスペイン各地の郷土文化が抑圧されたり、逆にある文化だけが称揚されて、若者からはダセェと思われたりと、いろいろだったそうです。
「38年間の長きにわたるフランシスコ・フランコ独裁政権は、権力集中化を狙って、徹底した隔離政策、検閲、カトリック教育を行った。唯一、彼に保護された音楽がフラメンコであり、そのため外国でもてはやされているフラメンコも、本国スペインでは多感な若者たちが、最も忌み嫌う音楽となっていた。フラメンコの再評価、及び個性的なスペイン・ロックが続々と出現するのは、フランコ他界後の1980年代初期であり、英米産ロックの物まねを脱して、名実ともにスペイン・ロックと呼べるグループが出現するのは、1980年代も終わりに近づいてからであった。」(wikipedia「フラメンコ」)
カミーノ・セリオは単なるスペイン料理人ではなく、ひなき曰く「創作スペイン料理で大注目」されたシェフでした。彼が日本に来たきっかけや、「創作スペイン料理」なるものを作るようになったきっかけを知ることはおそらく不可能ですが、フランコ体制末期や崩壊直後に生まれて育ったであろう彼のルーツを考えると、いろいろおもしろいですね。(彼の実家はスペイン・アンダルシアにあり、度々そちらに帰省していることは115話で語られていますから、日本で生活するようになったのはカミーノの代からでしょう。)
ずいぶんムダ話を入れましたが、ここで確認したかったのは、スペインの歴史と、カミーノ・セリオが「創作スペイン料理」の人であること、の二つです。
あ!スペインの地理も確認しましょうね!
赤く網掛けになっているのがアンダルシア。最南端ジブラルタルはイギリス領。 |
というわけで、アンダルシアはスペイン南部であることも覚えておきましょう。
(wikipedia「スペイン料理」「アンダルシア州」)
2.110話「情熱のサングリアロッサ」
ようやく飯テロだぞ!
かわいすぎる |
まずは四人が買ってきた物の確認です。
ひなき:人参、ズッキーニ、玉ねぎ、じゃがいも、セロリ(?)。
あかり:牛乳、ワインビネガー(?)、飲むヨーグルト(?)、ほか瓶多数
珠璃:ソーセージ、チーズ、ハム、オリーブの瓶詰め、缶、中身不明の白い箱、缶と思われる何か。
スミレ:ロブスター、エビ、ムール貝、魚。
おそらくひなきは八百屋担当でしょう。
あかりはえらく重たいものが多いですね。向かって左奥の緑の瓶はオリーブオイルかなあとも思うのですが、のちに登場するオリーブオイルはディスペンサーから出しているのでエンシエロ'sキッチンのものと思われ、買う必要はなく、違う何かかもしれません。(もちろん、キッチンになにがあるか分からず、スペイン料理にオリーブオイルは必須であることを思えば、念のため買ってきたとしてもおかしくはありません。)
茶色の角瓶はなんでしょうか?前述の緑の瓶と角瓶の間に赤いものが見えますが、これは何なのか。それとも緑の瓶の中に赤い液体が入っているのか?赤なら明らかにオリーブオイルではないことになります。さらに角瓶の左隣にはプルトップの缶が見える気もします。青い蓋にピンクのラベルのクリーム色の瓶は?その右の牛乳瓶のようなものは?
スミレは海産物担当ですね。特に言うことはありません。このときまだ魚は料理できないはずなので、料理のときは触ってないでしょう。
人参、じゃがいも、玉ねぎ、キャベツ、バゲット、ナス(?)、瓶詰めの何か、赤いもの、白いもの、トマト、ズッキーニ、ご飯(後にパエリアを作るので)、調味料多数。四角い皿か陶器のバットが多数と、カスエラ(後述)、金属のバットかカトラリー入れ。右端のは何?茶筒?
オリーブオイルでにんにくを炒めて香りを出す行程と思われる。にんにく丸のまま炒めてない? (一般に、にんにくは細かく刻むほど香りが立つ) |
ムール貝のタパス(タパスとは小皿料理のこと。前菜あるいはおつまみ) |
まず目を引くのはパエリアですね。その右隣にあるのはエビのアヒージョでしょう。そしてサラミ的なものに、ムール貝のタパス。そしてサラダと、画面右下のなんか白いやつ。(画面左下にあるのは、取り皿とみなしました)
パエリアはひと目見て分かる通り、語るのが非常に難しいので後に回します。
サラダはレタスと紫キャベツとかでしょう。あまり興味を惹かれないので割愛します。
画面右下のなんか白い皿はなんですかこれは。はんぺんですか。
アヒージョのお皿が、さっき書いたカスエラという、耐熱性の陶器のお皿です。陶器だからオーブン調理するものかと思いきや、カスエラは直火OKだそうです。土鍋みたいなものでしょうか。アヒージョは、オリーブオイル、にんにく、鷹の爪、塩がベースで、そこに入れる具材によって、エビのアヒージョになったり、キノコ(マッシュルーム)のアヒージョになったりするそうです。
サラミ的なものは、スペイン料理であることを考慮すればチョリソだと考えるのが妥当でしょうか。日本でチョリソと言えば辛いソーセージですが、スペインのチョリソはパプリカの赤みがあるだけで、さほど辛くないということですから、そのへんでしょう。ただ、スペインにもサラミはあるらしいので、やっぱりサラミなのかもしれません。じゃあスペインのサラミとチョリソは何が違うの!?知ってる方がいたら教えてください。熟成期間の長短なのかな……(wikipedia「チョリソ」「サラミ」)
そしてムール貝のタパスが難しすぎる!おそらく三種類の盛り合わせと、彩り兼付け合せのオリーブです。緑、オレンジ、カラフル。
まずカラフルなやつ(五つ作られている)はアップで映るのでそこから考えましょう。刻んだ生ハムにパプリカ三種と玉ねぎのマリネ、そこにブラックオリーブを乗せているとみていいでしょう。どうみてもカシューナッツの形をしているのは気になりますが、ナッツでは食感もアンバランスな気がしますから、やっぱり玉ねぎってことで良いんじゃないでしょうか。マリネとしてはちょっと具材が少なくも見えますが、もう気にしないことにしました。
オレンジの、なんか人参の千切りみたいなのが乗ってるのとか、緑のはもうやっぱりわからないので、わからないということにしました。(諦め)
ムール貝のタパスということで軽く画像検索しても、あまり似た見た目のものがヒットしません。分かる方がおられましたら、情報ください。
ところで業務スーパーでは冷凍のムール貝を安く売ってることがよくあります。業務スーパー、行こうね?
さて、いよいよパエリアを考えていきたいと思います。日本では、パエリアといえばエビとムール貝とイカですが、そもそも本場バレンシア地方のPaellaは海産物はあまり使わず、鶏肉と山の幸で作るそうです。なのになぜパエリアと言えば海産物の印象があるのか?ざっとネットを見た限り、この海産物のパエリアは、イスラム教徒を排斥するための、カトリックの“ハレ”の食事なんじゃないかなあと感じました。イスラムは「うろこのない魚」(つまり貝やイカなど)を食べられません。また、スペインのブラッドソーセージであるモルシージャや、それら豚由来の食材を用いた煮込み料理は、13世紀のレコンキスタ(端的に言えばイスラム―キリスト教の勢力の逆転です)や16世紀の(キリスト教を国教とする)スペイン王国成立以後、イスラムからキリスト教への改宗を示す“踏み絵”として機能したようです。魚介のパエリアも同様かなあと。
とはいえ、魚介のパエリアはスペインのムルシア(アンダルシアとバレンシアの中間で、これまた地中海に面している)で発達したという話や、あるいは逆に魚介のパエリアは20世紀以降ツーリズムへの対応として生まれたと書いてあるウェブサイトもあり、前後関係をここでサッと特定するのは難しいなあといったところで、いい加減本編のパエリアに戻りたいと思います。
これはなに |
一見して分かる通り、パプリカ、さやいんげんなどを用いていないので、伝統的なバレンシアのパエリアではありませんね。
まず黄色い柑橘が目を引きます。えらくデカく見えるのが気になりますが、まあレモンとかの類でしょう。パエリアには絞りながらいただくためのレモンやライムが添えられることもあるので、たぶんこれは調理してから後乗せしたのでしょう。ただ、中心の二切れの他に、二つ横倒しになったレモン(?)も転がっていますね。どういう盛り付けだ。
貝はムール貝ではなくアサリ。スペインはアサリの漁獲も盛んですし、日本でも手に入れやすいですから、合理的です。
刻みネギのように見えるのはパセリ、鍋下端付近のパセリが連なって見えるのでフレッシュパセリと考えられます。
緑色の塊がちょっと迷うところです。ほとんどはズッキーニらしく見えるのですが、画面下半分あたりのは、くし形に切られたかぼすか何かのようにも見えます。全部ズッキーニか、あるいは一部ライムか。
くし形のトマトも見えますね。
Juri's kitchenの追いオリーブ |
赤いひらひらしたものがなんなのかは解釈するしかありません。鶏肉ではないでしょう。形が不規則なのでベーコンっぽくもありませんし、生ハムをちぎって入れてるんじゃないかなあ。
見えていませんが、刻みタマネギは入っていると想定するのが妥当だと思います。
見えていませんが、刻みタマネギは入っていると想定するのが妥当だと思います。
まとめると、生ハムとアサリのトマトパエリアですね。
(wikipedia「パエリア」)
パエリア鍋、デカくない!? |
3.実践編
このパエリアを自宅で作ってみよう!というときのための備忘録です。
用意するもの。
米、水、塩(またはコンソメ)、サフラン(ターメリックなどでも可)、白ワイン(料理酒でも可)、にんにく、オリーブオイル。
玉ねぎ、トマト、ズッキーニ、柑橘類。
アサリ、生ハム。
ちょっと難しいのはフレッシュパセリですね。まあ乾燥パセリで代用することになるでしょう。もし家になければ、どうせなら香りが抜けにくい乾燥オレガノを買うのもおすすめです。
調理器具はフライパンを想定しています。
1.まず、オリーブオイルでにんにくを炒め、香りを出したら、砂抜きしたアサリと白ワインを入れて、フタして蒸して、アサリどもが口を開けたらフライパンから出して、出汁ごとよけておきます。
2.続いて、またオリーブオイルとにんにくで、トマト、ズッキーニを炒めます。大体火が通ったらまたよけます。
3.で、オリーブオイルとにんにくで、今度は米(洗わないでよい。無洗米ならなおよし)と刻みタマネギを透き通るまで炒めます。イイカンジになったら、水・塩・サフラン・アサリの出汁を混ぜたスープと、炒めた野菜を投入します。軽く混ぜて平らに均したら、最後にアサリを投入して、蓋をして炊き上げます。
4.米が炊き上がったら生ハムを切ったりちぎったりしてポイポイし、2分位温めて脂の口溶けをよくしましょう。
5.最後に、見た目良く柑橘類とパセリを盛り付けて、完成です。
水の分量や火加減、炊き上がるまでの時間は、雰囲気でやってください。ピラフとかと同じです。
俺も紅林珠璃のPaella食いてえなあ~~~~~~。金か?金を出せば良いのか?
あと紅林珠璃に人間生ハムにされてえなあ~~~~~~~~~~。
(各リンク先の最終閲覧日はブログ更新日です。)
参考文献(というより、インスピレーション元)
・ホンマチ、、2017、『Aikatsu-meshi episode. 1-50(アイカツ飯1~50話)』
・同、2017、『SHAMOJI LINE ―Aikatsu-meshi episode. 1-101―』
・同、2017、『数によるアイカツ飯分析 序論』
参考文献(というより、インスピレーション元)
・ホンマチ、、2017、『Aikatsu-meshi episode. 1-50(アイカツ飯1~50話)』
・同、2017、『SHAMOJI LINE ―Aikatsu-meshi episode. 1-101―』
・同、2017、『数によるアイカツ飯分析 序論』
0 件のコメント:
コメントを投稿