第6話「サインに夢中!」
ニコポップレモンのグラビア撮影の仕事に来たいちごと蘭。初めての撮影に、仕事も忘れてはしゃぎっぱなしのいちご。
「星宮、プリクラ撮ってんじゃねーんだぞ」
美しき刃だけに、ドスを効かせた声で叱りつける紫吹蘭であった。
そんな二人の仲睦まじいオフショットが雑誌の読者プレゼントになる。アイドルのブロマイド写真といえば、手書きのサインがお約束。さすがに慣れた手つきでサインを済ませる蘭。サインペンを手渡され、いちごがふと気づく。
「どうしよう!私、サイン持ってない!」
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スターライト学園の生徒は、入学当初にサインを作ることになっている。しかし編入組のいちごとあおいは、ジョニー先生の伝達ミスもあり、まだサインを持っていなかった。何はともあれ、翌日までにサインを作るように宿題を出される。こういうのはひらめきが大事だ、と言われても、初めてのサインで勝手が分からない二人は蘭に助力を求める。
ツンケンする蘭だが、結局は押し切られて、寮のいちご・あおい部屋でサイン作りをすることになる。放課後、蘭の私服姿に興奮しカメラを連写するあおい。キモオタはす~ぐ撮影しちゃう。
蘭先生のサイン講座が始まった。
「まずは自分の名前を、漢字、ひらがな、カタカナ、筆記体で書いてみな」
「筆記体?」
「そこから!?」
いちごは、英語には明るくなかった。
あおいは名字の「霧矢」の特徴を活かし、漢字表記を省略しながらアレンジしていくことに決める。まずは「霧」の字をスムーズに書けるまで、書き取り50回。一方いちごは、筆記体もおぼつかないのに「かわいくてカッコよくて素敵なの」を模索して迷走。「星宮!書き取りプラス50回!」蘭は鬼コーチだった。
そうこうするうちに、いちごも自分のサインを作り上げる。
「書くの大変そうだけど……まあ、自分が好きならいいんじゃん?」
蘭のオーケーで気が緩み腹の虫が鳴き、気付けばもう夜だった。
食堂に行こうと言うあおいといちごに対し、「夜8時以降は食べないって決めてるから」と、辞去する蘭。去り際に「私も楽しかっ……」と言いかけ、赤面する蘭。それに萌えるあおい。「萌え」を知らないいちご。
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翌日、ジョニー先生にサインを見せると、あおいは即オーケー。しかしいちごのサインを見てジョニー先生は驚愕。
「very very very スウィート!but、ヘビー」
筆記体のIchigoをベースに苺のイラストを盛り込み、きらめく星をちりばめ、さらに兎と花のキャラクター、来てくれたファンへのお礼の「thank you」、仕上げに、チャームポイントのリボンカチューシャをアレンジした意匠の枠組みと自画像。
「これ書くのにどのくらいかかる?チンタラ書いてちゃ、ファンの心は離れちまうぜベイビー。大事なのはSpeed!」
「うーん……わかりました!」
「作り直すの?」
あおいの問いかけに、いちごは決然と答える。
「ううん、変えない。特訓します!」
それから、サインを早く書くための特訓が始まった。
「何やってんだ?」
「書くスピードを上げる特訓」
木の幹と自分の手足を引張コイルバネでつなぎ、サインを書くのに使う筋肉を鍛える。
巨大色紙と巨大サインペンを使って超巨大サインを書くことで、身体全体にサインを覚えさせる特訓。「……って、こんな大きな色紙あるか!」
ストップウォッチを使って、時間を短縮していく特訓。「お、ゾロ目(22秒22)」
なんだかんだ言いながらも、いちごとあおいに付き合う蘭。
そしてついに一枚10秒で書き上げられるようになる。
その日の夜、いちごの実家から手紙が届く。スターライトに入学してしばらく経ち、商店街のみんなが看板娘だったいちごに会いたがっているという。せっかくの帰宅、週末にあおいと蘭も誘って、三人でいちごの実家“なんでも弁当”へ行くことにする。
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週末、なんでも弁当の前に着いてみると黒山の人だかり。なんと、弟・星宮らいちは、いちごとあおいのサイン会として商店街中に触れ回っていたのだ。集まっちゃったものはしょうがない、せっかくみんなが期待しているんだからと、いちごとあおいのサイン会が始まる。
らいちが蘭の来訪を予期していなかったおかげで、蘭だけは店内で待機。なんでも弁当自慢の“のり弁”を母・星宮りんごに振る舞われる。りんごと挨拶を交わしながらも、蘭は店の外のサイン会を気にしている。
あおいはお客さんと会話をしながら、にこやかにサインを書き上げ、お客さんも笑顔だ。
しかし、いちごはお客さんから色紙をもらったら、もうサインを書くのに夢中で、ずっとうつむいている。決死の形相で10秒以内に書き上げたら、すぐにお客さんに返してお別れになってしまう。徐々に、並んでいるお客さんたちの顔も曇っていく。
サインを書き上げていちごが顔を上げると、目の前に蘭が立っていた。
「あれ?蘭ちゃん?」
「誰にサイン書いてんだ」
気付けば、待っていたはずのお客さんもいない。
「アンタの態度見て、離れて行ったんだ」
「待たせすぎちゃった?」
「違う。ガッカリしたんだ」
そして、今もお客さんと笑顔で会話を交わしながらサインを仕上げているあおいの方へ目配せをする。
「ファンは何でここに来たんだ?星宮のサインが欲しくて来たんじゃない。アンタに会いに来たんだ。なのに、星宮はずっと下向いてサイン書いてた。そんな奴のサインいるか?」
言葉は厳しく、口調はぶっきらぼうだが、思いのこもったアドバイスだった。いちごは自分が恥ずかしくなってしまった。
「私、サイン書くのに夢中で……」
そこで、また新しいお客さんが来た。
「そのまま顔上げてな。サインなんて、不恰好になってもいいんだ」
蘭のアドバイス通りにやってみた。今度は、お客さんも喜んだ。
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週が明けて、ジョニー先生にサインを披露する。もちろん、顔を上げて、会話をしながら書く。できあがりは歪んでいたが、ジョニー先生はこれでいいんだと褒めた。困難なサインを自分のものとしたご褒美に、ジョニー先生は“エンジェリーシュガー”のドレスのアイカツカードのプレゼントし、さらに文房具のキャンペーンガールオーディションを勧めてくれた。
オーディション会場、フィッティングルームの前で、いちごはこの前のサイン会のことを思い浮かべた。蘭にアドバイスを受ける前に、離れて行ってしまったお客さんたちのこと。蘭のおかげで気付けたこと。そのあと来てくれたわずかなお客さんたちの笑顔。
「ガッカリさせちゃった人にも、また会いに来たいって思ってもらえるように……私、がんばる!」
見事オーディションに合格し、「気持ち伝わる虹色サインペン」のキャンペーンガールとなったいちごは、ショッピングモールでの実演販売会で舞台に立ち、自分のサインを披露。今やなんの苦も無く書けるようになった、かわいくてカッコよくて素敵な、いちごだけのサイン。
「見てください、こんなにサラサラ書けるんです!」
「ってそれ、特訓の成果だから!」
破天荒ないちごとあおいに振り回されて、 すっかりツッコミが板についた紫吹蘭であった。
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【今日の謎特訓】
【今日の着眼】
“アイカツカード”には、星の数で表わされる“レア度”が設定されており、レア度の高いものはアピールポイントが高い。また、有名な“ブランド”がいくつかあり、ブランド物はやはりアピールポイントの上でも強い。いちごはエンジェリーシュガーが好きで、あおいは“フューチャリングガール”が好き。蘭はずっと前から、“スパイシーアゲハ”を勝負服にしている。蘭は芸歴も長いので、星2に相当する“レアドレス”のアイカツカードを持っている。
【今日の美しき刃】
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蘭「星宮」 |
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蘭「プリクラ撮ってんじゃねーんだぞ」 |
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できあがった二人の写真。蘭といちごの表情の自然さの違いに注目 |
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外行きの私服 |
クールで美しく、しかし口調はボーイッシュ。そんな彼女の好きな食べ物は、公式設定ではヨーグルト。今回サイン練習でいちご、あおいの部屋に持ってきたのは、食べるにぼしとわかめとちからこぶせんべいであった。おやつでさえ自分を甘やかさず、渋いチョイス。
また、夜8時以降は何も食べないと決めているという発言もあった。アイドルとしての節制と自律の厳しさをこれほど端的に表す言葉はないでしょう。
【総論】
この辺りでそろそろ気付いたと思うんですが、アイカツ!はスポ根アニメでありながら、根性だけではなにも解決していないんですね。今回のサインについて言えば、特訓は実力を底上げすることにはなっても、だからこそサインに必死になってしまって、サイン会がお客さんにとっては貴重な交流の場であることを忘れている。それを蘭が気付かせることで、ようやくアイドルとして一つ成長する。
課題→特訓→気づき→成長、そして成長の証としてオーディションに合格する、というテンプレートです。
“気付き”がとても大切な事、そして、オーディションはそれまでの成長の試金石であり、その合否は成長の如何を評価している、という作劇上の構造。この視点はずっと持ち続けて、これ以降の話も観てみてください。
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