弁当屋の娘として育ち、毎日学校と店の手伝いで忙しくしていても、私たちのような中学生の有り余る気力と体力と時間を使い果たすことはできなかった。
ある日、幼なじみで親友の霧矢あおいが、神崎美月というアイドルのライブに誘ってくれた。出所は訊かなかった。あおいが差し出した2枚のチケットを見たとき、私はふと、深夜に金券ショップに忍び込み、真っ暗闇の中で金券を盗み出した時のことを思い出した。外に出て月明かりの下で確認したら、私が掴み取ったのはビール券だった。
「このライブ、20歳未満でも入れる?」
もちろん大丈夫だった。
でも私の弟、星宮らいちは神崎美月のファンだったし、あおいのこともとても慕っていたので、私はそのチケットをあおいとらいちに使ってもらうことにした。
当日。そのライブ会場はとても混雑していたし、ダフ屋が売り歩くチケットは私が買えるような値段ではなかった。入り口ではもぎりの係員が猛烈な速度で観客をさばいていた。私は会場の周りをしばらくうろうろして、なにか入れる方法がないか探した。
裏手に搬入業者用の通用口とおぼしきドアがあり、その周りは上端に有刺鉄線が配されたフェンスで囲われ、さらにそのフェンスは南京錠で施錠されていた。私は左右をちょっと見まわして、誰もいないことを確認すると、ポケットから小さなスパナを二本取り出して、両方の先端部を南京錠のフックに差し込み、テコの要領で力を込めた。簡単に開いた。
会場内に入れれば観覧できるかと思っていたが、意外にも観覧席は立ち見エリアまでも明確に区分けされていて、その振り分けの際にも係員が客のチケットを確認していた。チケットを持たない私は通用口の方に引き返した。コンクリート打ちっぱなしの廊下を歩きながら、会場の天井付近のキャットウォークにつながる道を探し、数分してようやく見つけた。背負っているリュックを引っかけないように注意しながらはしごを登り、照明が設置された骨組みに座り込んだ。
はるか眼下では、信じられないくらいの人数がひしめきあいながら、みんなが神崎美月のライブを心待ちにしている。あの中にはあおいもらいちもいる。私はこんな場所から見ているが、周りに人がいないのは快適だった。
持ってきたお弁当を食べながらライブの始まりを待つ。持ってきた紅茶を照明の熱で温め直すこともできた。一番の特等席がこんなところにあるとは誰も思っていないだろう。
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ここからすべてが始まった、アイカツ!第1話です。
【ただしいあらすじ】
主人公・星宮いちご(中学1年生)は、霧矢あおいのおかげで、らいちを含めた三人で神崎美月のライブを観に行き、アイドルに憧れる。あおいの熱烈な誘いと、母・星宮りんごの後押しもあり、あおいと共に神崎美月も所属するアイドル学校「スターライト学園」の編入試験を受けることを決意。
受験者は推定1000人。激戦を潜り抜け、いちごとあおいは揃って合格を果たす。
ここから、星宮いちごのアイカツ伝説が幕を開けるのであった。
第1話の注目ポイントは、アイカツ!世界の大前提となる“アイカツシステム”の存在。
アイカツ世界におけるアイドルの服は、各ブランドのデザイナーが作った服を特殊な装置でカード化したものが流通している。ライブでは、この無数の“アイカツカード”から自らの衣装を選び(“セルフプロデュース”)、それを“フィッティングルーム”の装置に読み込ませることで、一種のVRのように衣装を 身にまとうことができる。
(参考リンク:スターライト学園ブログ「アイカツ!カードって…」)
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「芸能人はカードが命」ソウルジェムと同じく、破壊されたらアイドルは死ぬ |
そしてこのアイカツシステムは、観客一人一人が装着するヘッドバンドを通して観客の興奮度を測り、それが高まると“スペシャルアピール”を出すことが可能になる。このように、アイカツシステムは現実では不可能な演出をも可能にする。
なお、ライブシーンは3DCGで描かれる。
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若干オタク感あふれる霧矢あおいのシャツ姿 |
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アイカツシステム未起動 |
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アイカツシステム起動中 |
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神崎美月のスペシャルアピール(空を飛んでいる) |
この時点で、神崎美月(中学2年生)は既に劇中最強のトップアイドルとして登場し、あまりアイドルに関心のなかった星宮いちごもその存在を知っている。
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最強なのでライブ会場もでかい |
そんな最強の神崎美月に憧れ、星宮いちごはアイカツを始めることとなる。
いちごは初めての舞台である入学オーディションで、スペシャルアピールを出す。
神崎美月もまたそんないちごを見て「おもしろくなってきた。早く私のところまで登ってきて」と期待をかけるのであった。
【今日の美しき刃】
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「やれやれ、仲良しでいられるのも今のうちだよ」 |
いちごとあおいがお互いの合格を、手を取り合って抱き合って喜ぶ(ここ百合)様子を見て、冷ややかに「やれやれ、仲良しでいられるのも今のうちだよ」と呟き、華麗に踵を返して立ち去る。
このシーンもまた、紫吹蘭なまくら化伝説の始まりであった。
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