「Listen!ハニー達!カメラ目線はアイドルの初歩の初歩!動くカメラに自慢のポーズをキメてやれ!」
ジョニー先生がいつものジャージ姿で、センテンスごとにポーズをキメながら生徒に激を飛ばす。
動くカメラは、スターライト学園の特訓備品の一つだ。三輪の台座から二つの関節を持つアームで繋がれたカメラが、プログラム制御され縦横高低自在に動き回る。標準的な指導要領としては4台が用いられ、それぞれが順々に撮影ポジションに着くと自動的にシャッターが切られる。このカメラはアイドルの準備を待たない。アイドルがカメラのタイミングに自分の準備を合わせるのだ。さらに実力が向上すると、台数を増やすか、複数台が同時にシャッターを切るようになる。カメラ目線とポージングをマスターしたならば、次はより素早いポージングや、隙のない横顔をマスターする必要がある。
この特訓にも食らいついてゆくあおい、これまた翻弄される一方のいちご。
「微笑むのはカメラに向かってじゃない!カメラの向こう側にだ!」
「む、向こう側……?」
ジョニー先生の激も、まだまだいちごにはしっくりこない。
アイカツは毎日の特訓の積み重ねだ。オーディションを勝ち抜くには、それ相応の実力を身に着けなければならない。それは漫然と授業を受けているだけで得られるようなものではない。衣装のセンスと同様に、実力もまたセルフプロデュースなのだ。
あおいと二人一組で、たこ焼き屋のキャンペーンキャラクターオーディションを受けることにしたいちごは、足腰の錬成のために学外での朝ランニングを始めた。前回のライブオーディション(第2話:臨時マネージャー)であおいと同時にステージに上がりながらも、ダンス中に転倒したいちごは合格できなかった。二人一組となれば、あおいの足をひっぱるわけにはいかない。
「アイ、カツ、アイ、カツ……」歩調は自分で取る。
2キロ走り、4キロ走り。だんだん息が上がってきた。一人で歩調を取っているから、呼吸のリズムを取るのが難しい。なんだか脚も痛いし、苦しいし、それになにより……だんだん、寂しくなってきた。