第二章
西暦1946年2月25日
太平洋上――旧ミッドウェー島沖
猿宮忌三一等飛曹がその飛行機の存在に気づいたのは、直援機隊のG55が、ほぼ壊滅状態に陥ったときのことだった。常人の目には、空母の飛行甲板から垂直に飛び立つ黒点としか写らない。しかしずば抜けた動体視力を持つ猿宮の目は、その奇妙な機体の構造を瞬時に把握した。
鉛筆の芯のような胴体の中央から突き出ているオートジャイロのような三枚の回転翼――それが超高速で回転し、驚異的な上昇力を生み出している。
回転翼の先端に付いている円筒形の物体は、おそらく――ジェットエンジン。
「敵の新鋭機か。」
忌三はそうつぶやくと、直援機との空戦を中断し、未知の脅威への盾となるべく、乗機の零戦54丙型――発動機を従来の栄1100馬力から1500馬力の金星へ換装した零戦の最終発展形――の機首を攻撃隊の方へと向けた。