2016年10月24日月曜日

寄稿文『旧世紀エヴァンゲリオン FAKE GENESIS EVANGELION 鋼鉄の宴』第七章後半



第七章後半

「第四次攻撃隊より、敵「エセックス」級空母一隻を大破との報告が入りました。これで、敵艦隊の空母は全滅です。」
 通信長からの報告に、戦艦「大和」の司令塔はしばしどよめいた。昨夜見失った太平洋艦隊を、空母「葛城」の「彩雲」偵察機が再び補足したのが一一二〇時。場所は日本艦隊の北西三百キロの地点であった。碇司令はこの報を受けて艦隊の進路を南東に変更、三次に渡る航空攻撃を行い、今日だけで敵空母二隻を撃沈、一隻を大破させた。正に赫奕たる戦果であった。しかし、浮かれた空気が艦橋に長く留まる事は無かった。
「各空母に第五次攻撃隊の準備をするよう伝えろ。今回は、上空直掩に割いている部隊を含めた全稼働機を出撃させる。」
 司令官の冷静な指令により、司令部に緊張を取り戻す。冷酷ではあるが、無能では無い。全ての幕僚達が、司令官の資質を理解していた。
「はい、早速、「赤城」及び「葛城」に連絡します。」
「まて。補足がある。」
 通信士の返答は、命令を発した当人によって無力化された。
「艦攻は航空魚雷ではなく陸用爆弾を搭載。艦戦も全機爆装させる。艦爆は通常の対艦攻撃装備でいい。そして、攻撃隊は全機、爆弾を投弾せずに敵艦隊に対し体当たり攻撃を敢行すること。以上だ」
 司令官の発言は、司令室を恐慌状態に陥らせるのに十分なものだった。確かに投弾後の航空機を敵艦に体当たりさせれば、敵艦隊の損害はより大きくなるかもしれない。しかし、それと引き替えにこちらも艦載機と搭乗員を全て失うことになる。普通に攻撃していれば、多くの機体と搭乗員を回収できることを考えれば、あまりにも費用対効果の高い攻撃法である。ここまで有利な形で戦闘を進めて来た日本側が、そのような分の悪い取引をしなければならない理由は、どこにもないはずだった。それに、何より、
「しかし、そのような非人道的な作戦は、私としては・・・」
「構わん。勝利のためだ。」
幕僚の一人がたまらず上げた声はすぐさま遮られた。
「長官、我が軍は既に敵艦隊に壊滅的な打撃を与えています。次の勝利の為にも、ここは一回引くべきです。」
「次など無い。この海戦で、全ての決着を付ける。」
碇ゲンドウが再びそう宣言すると、艦内からはもう反対意見は出なかった。この状態になった彼を説得できる可能性を持つ人物は、現在駆逐艦「冬月」に座乗している参謀長の加持リョウジただ一人であることを、皆知っていたからだ。、
 何かに押しつぶされたような沈黙が漂う中、ゲンドウは一人笑みを浮かべながら、じっと自分の右の掌を見つめていた。

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