2016年2月18日木曜日

カミソリ関係の買い物と、炭素鋼刃のすすめ。

 最近、神保町行ったんです。神保町。
 そしたらなんか本屋がめちゃくちゃいっぱいで大変なんです。
 で、よく見たらなんか一件だけ刃物屋あって、野崎屋刃物店、とか書いてあるんです。

 これより先は思いつかないので吉野家コピペはもう終わりね。
 今どき吉野家コピペかよ、おめでてーな。きょうび流行んねーんだよ、ボケが。
 
 で、まあ、刃物屋があったわけよ。
 両刃カミソリ使いは刃物屋があると入らずにはいられない習性があるから、まあ入ったんだけど、そこでちょっと買い物したから、その収穫の自慢でもしようかと思って記事を書いてるわけ。


画像1

これらはすべてカミソリ関係の製品です。どれもかなりの年代物で、買うときには店主から「使えるかどうかは保証できないけど、アンティークとして買って行く人もたま~~~にいる」という旨のことを言われました。

 一番上、赤色の長い物は眉剃り・産毛剃りなどに使われる長柄のカミソリ(が紙に包まれたもの)。販売元は「フェザー」――つまり日本国内で貝印とシェアを二分するフェザー社――なんだけど、製造元が「ベッサー工業株式会社」となっていて、この会社についてはネットで軽く検索しても出てこない。ここではこの製品を仮に「ベッサー」と呼ぼう。
 そもそも僕の知る限り、フェザーはいまこの形状の長柄のカミソリを作っていないので、珍しいと思い購入。(折りたたみの顔剃り、「フラミンゴ」という商品はありますが。)

 いま、長柄のカミソリで流通しているのは管見の限り貝印の方だけですが、それともまた形状が少々違い(「画像2」参照)、時代を感じます。

 
 画像2
画像上は貝印「長柄ゴールドアルファ」、下はフェザーの「ベッサー」

持ち手部分の形状はほぼ同じ、というか多分完全に一緒です。貝印はフェザーから枝分かれした企業ですから、おそらく金型ごと流用でしょう。
 柄の色を除いて目につく違いは、刃の色、刃の露出部分の長さ、”覆い”の有無です。

 まず刃の色の違いはまず間違いなく材質の違いによるものです。銀の刃はステンレス製、黒の刃は恐らく炭素鋼製でしょう。カミソリは(正確には多くの刃物がそうなのですが)まず炭素鋼に始まり、一般化と技術の進歩に伴ってステンレスが市場を席巻してゆきました。一番の特徴は錆への強さ・弱さで、ステンレスが周知の通りの性質を備えているのに対して、炭素鋼はすぐ錆びます。刃物マニアは俗に「炭素鋼は切れ味が良い」と言うことがありますが、それも怪しいものです。刃物の切れ味は研ぎ方次第ですからね。

 日用品として考えるなら、現在炭素鋼のカミソリを使う利点はほぼないでしょう。あるとすれば、炭素鋼の製品がステンレスより安いことくらいですが、同じ使い方をすると、炭素鋼のカミソリ刃は価格の差を補って余りある(悪い意味で)速度で錆びるので。

 刃の露出している部分の長さの違いと、“覆い”(金色の長柄についている、銀色の部品。これがあると、刃が危険な角度で肌に当たることを防いでくれるとか)の有無は、まさに安全性を担保するための工夫の、時代的な差でしょう。



 また「画像1」に戻りましょう。




 次は、左端の青いものと白いもの。これはどちらも、「サービスホルダー」と言って、今でいうなら試供品と業務用使い捨て製品の性質を併せ持ったものです。パッケージの様子からしても、(写真には写っていませんが)裏面の日本語の感じからしても、白い方はこの中でも一番の年代物だと思われます。なにしろ「定価10円」の「サービスホールダー」(原文ママ)です。 どちらも、分解して別の刃を付けられるのかは確認していません。お店に一つずつしかなかったので、パッケージを開けるのが躊躇われるからです。



 残りは全部両刃カミソリの替刃で、資生堂、ジレット、詳細不明なスウェーデン製、の3種類です。野崎屋刃物店には、とにかくたくさんのビンテージ品があったので、もっと多くのメーカーの製品が存在したのですが、ひとまずは、比較的在庫の多かった資生堂とジレットのものを2枚ずつ、そして友人の関係で思い入れの深いスウェーデン製を買いました。

 ジレットは今でも世界に冠たる剃刀メーカーという風情ですが、資生堂はもう両刃の替刃は作っていませんね。最近数年ぶりに銀座に行ったので、なんとなく敬意を表して買ってしまいました。
 きっと昔は、国内だけでもいくつもの会社が会社の名でカミソリ替刃を作っていたのですね。実際の製造元が、包み紙に書かれた名義と同じ数だけあったとも思えませんが、少なくとも今の多枚刃カミソリや電気カミソリよりは、技術的に参入はしやすかったことでしょう。
 将来、何かの間違いで両刃カミソリが復権して、いろんな会社から替刃が販売されるようになる日がこないかな、と夢想しています。そしたら無意味にいろんな会社の替刃を買って、毎回違うのを使うんだけど。


 最後のスウェーデン製とおぼしき製品、「Blue Venice: BROAD EDGE SWEDISH
STEEL BLADE」は、紙包み(5枚入り)のものと、箱入り(おそらく10枚入り)のものを一つずつ購入。スウェーデン、特にスウェーデン軍のマニアである友人に合わせてのチョイスです。
 ひと月ほど前にこの友人に「スウェーデンの両刃カミソリメーカーはどこ?」と訊ねて――

 伝統的な普通のスウェーデン人は髭など剃らない
   (意訳:国産してないんじゃなかろうか)」

――という旨の回答をもらっていたところですから、日本で屈指のスウェーデン軍研究者の彼でさえ知らない製品と言うことになります。ネットで調べても、少なくとも日本語のサイトはひっかからないので、さらなる情報を得るのは難しそうです。おそらくこの企業は、すでにカミソリ事業からは撤退していることでしょう。
 気になるのは、パッケージが英語な点と、スウェーデンとヴェニスの間に関連が思いつかないところです。もしかしたらスウェーデンの鉄を地中海のメーカーがカミソリにしたのかもしれませんが、スウェーデンと鉄鉱業が繋がる印象もありません。謎は深まります。

 余談ですが、髭剃りは、戦士が戦場でヒゲを掴まれて不利になることを避けるために行われるようになったと言われていますから、北欧民族のご先祖であるヴァイキングのヒゲモジャなイメージというのも、正しいのかどうか分かりませんね。むしろ無精ひげがちょっと伸びたくらいのところまで、ナイフで切っていたのではないかな、という気もします。


 さて、資生堂、ジレット、Blue Veniceの3製品とも、パッケージに「BLUE」と記述されているのは、(この「画像1」では分かりませんが)刃が青みを帯びているからです。この青みは、炭素鋼の刃をコーティングした証で、純粋な炭素鋼よりは劣化を遅くさせる働きがあると、なにかで読みました。この手のコーティングは現行のフェザーの替刃(後述する「青函」)にも施されています。ただ、一度でも肌に当てるとコーティングは取れてしまうのかなんなのか、まあすごい速度で錆びます。純粋な炭素鋼は、もはや置いておくだけで錆びるのではないでしょうか。
 ちなみに、OLFAのカッターナイフの替刃には、材質は同じで刃付けの角度が違う2つの製品、白刃と黒刃(「特専黒刃」)がありますね。後者の黒色は、「ブルーイング(青色酸化皮膜と呼ばれる表面処理)を行っている為」についた色だとか。おそらく炭素鋼カミソリ刃に施されるコーティングも似たようなものじゃあないかと。
参考:OLFA「よくある質問(FAQ)

 さて、Blue Veniceの興味深い点は、刃の形状が異なっていることです。

画像3
左上が油紙(あるいはパラフィン紙)に包まれた状態の「Blue Venice」、
右上がフェザー「青函」、左下はフェザー「ハイ・ステンレス」、右下はゴミ(パッケージ)

Blue Veniceが1枚の板に3つの穴が開いたカミソリであるのに対し、フェザーはその3つの穴が一本の線でつながったような穴になっています。資生堂やジレットも同じ形状です。
 言ってしまえば現行の替刃は、基本的に世界中どこでもフェザー型(便宜上こう呼んだだけで、この形状自体は別にフェザー発祥ではありません)をもって、「両刃カミソリは世界共通規格」と言われています。Blue Venice型(同じく便宜上こう呼ぶ)はかなり古い型のホルダーで、こちらは現在主流ではないようです。しかしフェザー社のホームページを見ると、「製品情報」のうち、「〈業務用〉工業用製品」というリンクになっている画像のなかに、Blue Venice型のカミソリの刃があります。この型を使えるホルダーが、世界のどこかでは生産されているのでしょうか。



浮彫の施された厚紙箱パッケージと、同じく浮彫の施された包み紙パッケージ。
このように美しいパッケージの製品が、またいつか作られるようになってくれたら。

~まとめ~

自分が両刃カミソリを使うようになってみると、両刃カミソリの歴史的な変遷は非常に気になるところですが、剃刀について体系的にまとめた書籍というのは管見の限り見当たらず、もしかしたら研究が難しい分野かも知れません。日用品のような、「それはそう在って当然」なものほど史料に残りにくい、ということの典型ですね。


オマケ


・ブルーコーティング炭素鋼の刃をうまく使おう

 なんと言っても水分が大敵。
 絶対やっちゃマズいのは、お風呂で髭を剃った後、ホルダーを風呂場に放置すること。
 これをやると錆びる。2秒で錆びるね。
 だから、ホルダーと一緒にお風呂に入って、ホルダーと一緒に上がろう。
 ただし、あなたが風呂上りのコーヒー牛乳を飲む場合でも、カミソリにコーヒー牛乳を飲ませようとしてはいけない。カミソリはコーヒー牛乳飲まないらしいよ。知ってた?
 
 さて、一緒に風呂を上がっても油断はできない。
 付着した水分が自然に乾くのを待っていたら、乾く間に錆びる。
 例えばフェザーの「両刃ホルダー ポピュラー」の場合、剃るときの形態にしたまま乾くのを待つのはマズイ。これは人間で言うなら、服を着たままお風呂に入って出てきたようなものだ。
 それで乾くのを待ってたら、人間なら風邪を引くし、炭素鋼刃ならサビが出るってワケ。
 髭を剃って、ホルダーと一緒に上がったら、自分の身体を拭くより先にホルダーを開けて、刃を開放しよう。閉じたままだと、刃が錆びるだけじゃなく、ホルダーにまで“もらいサビ”がうつる。

 そして刃を摘み出したら、フーフー吹いて水分を飛ばすなりなんなりしよう。指で水分を拭うとベストだけど、指を切ったら痛いし血が出るし、その指を消毒してバンソウコウを貼り終わったころには、カミソリ刃はあなたの返り血で錆びているだろう。
 布で拭くと安全だけど、刃に真っ向から当てると刃こぼれが早まってもったいないので、中心から刃に向けて拭いていこう。とはいえ、カミソリ刃は包み紙とノリづけされていて、刃にもノリが付いているから、布で拭こうとすると面倒。やはり指で拭うのが安定。

 とにかく水分を取るために、他にも方法はある。
 手軽なところでは、ドライヤーで乾かすという手がある。カミソリが乾くのが先か、あなたの指が熱さに耐えかねてカミソリの刃を取り落とすのが先か、というスリリングなチャレンジもできる。
 落としたら刃が欠けてしまう。いずれ治る指先の火傷と、替刃一枚、どちらが大切かは明らかであろう。

 あるいは、薬局で無水エタノールを買ってきて小皿に注ぎ、そこにカミソリ刃を一度沈めて取り出す方法がある。アルコールはすぐ蒸発するので、結果、すぐ乾くというわけ。
 ただし小皿にカミソリ刃を入れるときに刃を皿に当てると刃こぼれが早まるので、手先の器用さとコントロールに自信のない人は、洗面器いっぱいにアルコールを注いでおいて、刃をつまんだ指ごと沈めると良いだろう。
 ところで炭素鋼刃のフェザー「青函」は10枚300円くらい、無水エタノールは500mlで1000円くらいだ。洗面器いっぱいなら、一回2000円で炭素鋼の刃を長持ちさせることができる。




まとめ:
 まあお前らド素人は、ホルダーを風呂場に置きっぱなしにせず、刃とホルダーの水を息で吹き飛ばしたら、あとは刃を開放したまま乾かしておきなさいってこった。 

 ここだけ吉野家コピペにして伏線回収したフリする。

 うーわそういう姑息な大学生の論文みたいなことすんの最悪。

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