2016年2月29日月曜日

寄稿文『旧世紀エヴァンゲリオン FAKE GENESIS EVANGELION 鋼鉄の宴』第五章前半



第五章前半

 空にかかる分厚い雲は、星の光はもとより月さえも覆い隠していた。任務を果たすにはうってつけの天候だ。だが、

(俺は・・・、沈められるんやろか。あの化け物を)

 随伴艦である事を利用して戦艦「大和」に至近距離まで接近。そして「酒匂」の持つ八門全ての魚雷発射管から一斉に九三式酸素魚雷を発射し、大和を撃沈する。それがトウジの使命だった。
「心配することはない。いかな「ヤマト」といえども所詮は人の造ったモノに過ぎん。片弦に十本も命中させれば轟沈するはずだ。」
 キールと名乗る男にそう命ぜられた時には、それほど不安はなかった。自分が別に勇敢な人間ではないということに、その時はまだ気が付いていなかったのだ。国府軍の砲艦と共同で黄河を遡り、八路軍に向けて艦砲射撃を行ったときも、南シナ海で潜水艦に向けて爆雷を投射したときも、彼は躊躇しなかった。でもそれは、敵を同じ人間だと認識していなかったから出来た事だと、やっと、気付かされた。

(人一人殺しただけでこんなに怖がるなんて、まるでガキだ)
<そう、子供なんだよ。君は認めないかもしれないけどね。>
 拳銃で撃ち抜かれた左胸の貫通銃創から、勢いよく血を吹き出しているカヲルがトウジの目の前に現れて言った。無論、彼にしか見えないであろう幻である。しかしその幻を無視するだけの気力が今の自分には欠けている事を、トウジは認めざるを得なかった。
「消えろ、消えてしまえ。おれは強いんや、強くなければいかんのや。ゼーレに人質とされた妹の為に。そして、シンジの為に。」
 そう、自分は強くなれる。たとえ一人では臆病でも、仲間のためなら勇敢になれる。そう、俺は勇敢なんだ。少年は自分自身にそう言い聞かせる事しか出来なかった。

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