2016年4月29日金曜日

寄稿文『旧世紀エヴァンゲリオン FAKE GENESIS EVANGELION 鋼鉄の宴』第五章後半




(カヲル君とトウジが無事に帰ってきたのか。よかった)
 1946126日一五二三時(現地時間)、敵艦隊に対し単身挺身索敵を行っていた空母「蒼龍」は敵潜水艦の攻撃を受け沈没。蒼龍を曳航していた巡洋艦「酒匂」は連合艦隊旗艦「大和」をはじめとする主力艦隊に合流することとなった。
 これらの報告は例によって「名ばかり艦長」のシンジには正式には通達されず、新城副長への報告を横で聞いて知ったことだったが、それはどうでも良いことだった。シンジにとって数少ない友人である二人が指揮を執る艦が近くにいてくれる。その事が、シンジにはたまらなく嬉しかった。
 シンジは艦の周囲を警戒している見張りのところへと向かった。どのみち艦長としての責務を果たすことなど、誰からも期待されてはいないのだ。それならば「酒匂」の艦影を見張りと共に探したっていいじゃないか。
 しかし碇シンジの幸福は長くは続かなかった。酒匂はあらかじめ指定された位置である輪陣形の最後尾――大和の真後ろにあたる位置である――につこうとはせず、大和の右舷を航行中の巡洋艦「大淀」のほうに向かって来たのである。
(何を考えているの。カヲル君)
 シンジはあの艦を動かしているはずの友人が何を考えているのか知りたいと思った。そのためには現実を見なければならない。行動を起こさねばならない。でもそれはいやだ。でも逃げたくはない。でも傷つきたくはない。でも、にげちゃだめだ。
 酒匂はなおも「大淀」に向かって接近してくる。もう大淀と酒匂との距離は2000mもないだろう。そこまで考えたとき、シンジは自分がとんでもない思い違いをしていたことに気がついた。違う、酒匂が近寄っているのは「大淀」ではない。大淀の左舷を航行中の「大和」だ。
にげちゃだめだ
 闇の中を近づいてくる艦影が双眼鏡を使わずとも確認できた。大淀の間に割り込んできた酒匂の艦影は、もはや双眼鏡など使うまでもなく、くっきりと闇夜に浮き上がっていた。そして、「酒匂」に設置されている二基の四連装61㎝魚雷発射管は…
にげちゃだめだ
 その時、鋭い光が巡洋艦の艦影をくっきりと映し出した。月光などではない、人工的な鋭い灯火。戦艦大和の探照灯からの光だ。

にげちゃだめだ

「軍艦旗が…。酒匂の軍艦旗が。」
 シンジは悲鳴に近い声を上げた。逆光で一時的に視力を失う刹那、酒匂の後部マストに掲げられているはずの旭日旗が、五角形と星形を組み合わせたデザインの国際連盟旗へと掛け替えられている様子が、シンジの目に焼き付いた。

にげちゃだめだ

そして…
「敵艦。魚雷発射。」
 必殺の八本の槍が、大和に向けて放たれた。

にげちゃだめだにげちゃだめだにげちゃだめだにげちゃだめだにげちゃだめだ

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