2016年5月15日日曜日

寄稿文『旧世紀エヴァンゲリオン FAKE GENESIS EVANGELION 鋼鉄の宴』第六章前半



第六章前半
 
「馬鹿な。直撃のはずだぞ。」
 トウジは驚きの声を上げた。「大和」と「酒匂」との距離は約1000m、これだけの至近距離なら、先ほど「酒匂」が放った八本魚雷のうち、少なくとも六本が「大和」に命中したはずだった。しかし、「大和」の右舷に魚雷の命中を示す水柱は一本もたっていない。

(まさか、不発?)

 無論、そのような都合の悪い偶然が起きるわけがない。おそらく、「酒匂」の裏切りを予期した碇ゲンドウが、前もって魚雷の信管に細工をしておいたのだろう。
 予備魚雷の装填にはどんなに急いでも数分はかかる。それも四連装魚雷発射管のうちのたった一本を装填するのにだ。しかも、予備魚雷の信管が細工されていない可能性は、極めて低い。残る攻撃手段としては「酒匂」の主砲である長一センチ砲があるが、軽巡の主砲では、この距離でも「大和」の装甲を打ち抜く事は出来まい。
 想定外の事態に頭が真っ白になったトウジは、ふと、股間に違和感をおぼえた。生温かい感触が、股間から股にむかって広がって来ている。

(小便、漏らしとるやないか) 
  
 トウジはこの不始末を部下に気付かれてはいまいかと、慌てて艦橋を見回した。どうやら、酒匂の乗組員たちの視線が、ことごとくトウジに注がれているにも関わらず、だれ一人として、トウジの粗相には気がつかなかったようだった。
 いや、だからこそ、気がつけないのだろう。
 彼らは皆、艦長のことをすがるような目で見つめていた。おそらく、胸の内から絶え間なく沸き上がる恐怖や後悔の念に圧倒され、救いを求めているとか、そういったところなのだろう。だが、たかが八本の酸素魚雷を放っただけで友人や肉親に対する使命感を使い切ってしまう人間に、救済など出来ようはずもない。だから、いくら自分が取り乱したところで、

(だれも、気づこうとしないわけか……さすがは、俺の部下やな)
「逃げろ」
 と、トウジは部下たちに命じた。それは、少年の心の叫びでもあったし、おそらく、彼らが心の中でもっとも欲していた言葉でもあったろう。しかしながら、さきほど漏らした小便を褌が吸い込んでしまったようで、蒸れた下着の感触が、なんとも、きもちわるい。

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