2017年11月4日土曜日

アイカツスターズ!新OP「MUSIC of DREAM!!!」について語ろう

アイカツスターズ!新OP「MUSIC of DREAM!!!」について語ろう

 『アイカツスターズ!』もついに第2シーズン後半戦に突入し、第76話からはOP/EDともに新曲がやってまいりましたね。1
 その名も「MUSIC of DREAM!!!」と「森のひかりのピルエット」。
 今回は前者の「MUSIC of DREAM!!!」について語るんですけども。
 (本論稿では、「MUSIC of DREAM!!!」を、歴代OPとアイドルたちの「個性」、「アンセム」などの観点を踏まえて語ります)


 まず前提として、『アイカツスターズ!』(以下、ズ!)のOPは、前作『アイカツ!』(ア!)のOPとは違った工夫が施されてますね。
 ア!のOPは、1-25話「Signalize!」/26-50話「ダイヤモンドハッピー」できっちりと切り替わっていました。放送時期について言えば、これは劇中及び現実での学年の変わり目であると同時に、一年間をちょうど真ん中で区切ったということですね。1stシーズンの前半後半、ということです。
 例を引くなら、ガンダムシリーズもこういうことをよくやります。例えば『機動武闘伝Gガンダム』においても、1-25話では「FLYING IN THE SKY」、そして26-49話は「Trust You Forever」、同時に主役機も変更する、という手法でした。(シャッフル同盟の機体も強化しろよ)(ありがとう『超級!機動武闘伝Gガンダム』)

 この半年区切りでのOP変更というスタンダードな手法に対して、ズ!のOPには、一年間で、1-25話「スタートライン!」、26-33話「1,2,Sing for You!」、34-50話「スタージェット!」、という3曲が用いられました。
 そう、1stシーズン後半でもう一度OP変更が入っているんですね。

 物語の読解において「反復」はとても大切な点ですが、同時に「逸脱」も重要な着眼です。
 このOP変更タイミングの逸脱はなぜ行われたのか。(「なぜ」という「意図の推定」めいた問いから以下の記述を続けるのはちょっと妥当ではない気がしますが、まあ言葉が思いつかないのでこう書いておきます)
 
 33話と34話の間に起こったこと。それは桜庭ローラの精神的成長でした。
 この頃のズ!の物語的な推進力は、主人公・虹野ゆめの「謎のチカラ」を巡る困惑と、そんなことは知らない桜庭ローラの迷いです。この二つの「問題」(problem, trouble, issue, matter, question...どれと見るかはちょっとみなさんにおまかせします)が解決に向かうのがこの頃です。33話の最後に「答え」を見つけたローラは、34話には晴れやかな表情でゆめとハイタッチを交わしています。2

 続く35話ではゆめの「謎のチカラ」がひめ先輩によって抑制され、36話でついにゆめ自身が「謎のチカラ」を克服します。こうして、物語の推進力の役割を担っていた二つの「問題」は解消され、今度は各々がS4戦に向けて突き進んでいくことになります。

 こういう観点からOP曲の変更について考えてみましょう
 1-25話の「スタートライン!」は「夢は見るものじゃない/叶えるものだよ」、「誰かの真似なんて退屈なだけさ」といった歌詞の曲で、何よりこれはひめ先輩のテーマ曲でした。3
 ひとまず一面的に語るなら、1-25話は、主人公世代がまだまだ先輩たちにただ憧れ、引っ張られる時期とまとめてしまいましょう。
 もう一つ注目したいセンテンスが「もし君が立ち止まり迷う日は/瞳閉じて心の声を聴いて」です。「迷い」を取り上げ、しかもその解決は先輩や友人の手助けによってではなく、「心の声を聴」くことによってなされるという形式が提示されています。ア!のもっとも重要な主題歌である「SHINING LINE*」では「涙に傘を差す/笑顔はホンモノで」というセンテンスでは、落涙する大空あかりに笑顔を見せる星宮いちごが描かれていますから、ア!とズ!の質的な違いは、ここにもまた端的に現れていると言えるでしょう。
 ここで、「問題」が生じたとしても、解答を何者か(先輩など)が単純に示すことはできないということがOP曲で暗示されています。

 26-33話の「1,2,Sing for You!」はゆめ、ローラ、真昼、あこが歌う楽曲ですね。OP映像でも、夜明けを眺めるゆめロラがまず映っています。曲調もずいぶんと明るくなりました。「愛のロックンロール」という歌詞を考えると、主人公世代の中でもちょっとローラ寄りの楽曲でしょうか?
 ともあれ、また一面的にまとめると、この曲の時期は主人公世代が「個性」を見つけてゆく過程と言えるでしょう。そしてまた、「ツライってうつむいたら 夢なんて叶わない/もう涙を拭いたら ほ・ら キラめく太陽見えた!!」と、上向く心を投影したような歌詞で気分を持ち上げてくれます。

 そして、34-50話「スタージェット!」。「もっと輝きたい/きっと私らしく STARS!」4、「なりたい私になれ!冒険しようよ」、「正解は私が決めるの」といった歌詞は、S4戦に向けた心意気と、自分なりの「個性」を見出した各人の自信を感じさせます。疾走感たっぷりの曲調も、空を舞いながらスカートをひらめかせてみせるゆめちゃんの姿も、特に37話以降の視聴者にはとんでもない多幸感をもたらしてくれます。

 長くなってきたのでそろそろ一度まとめましょう。
 アイカツスターズ!では、OP曲と登場人物たちの成長が相似形になっている、というのがここで私が言いたいことです。
 これを指して、私は以前twitterで「ズ!はOPが変わるたびにアンセムみが増している」というくらいのことを言いました。(注:言ってませんでした)
 ここでいう「アンセム」というのは、「聖歌」の意味でも、クラブ文化における「ブチ上がる曲」の意味でもなく、「賛歌」の意味です。

 私の読解において、ズ!のOPは常に「アンセム」です。ではそれは何への賛歌なのか。これももう定義してしまいましょう。「個性」への賛歌です。『ジョジョの奇妙な冒険』のテーマが「人間賛歌」であるように、『アイカツスターズ!』OPは「個性賛歌」であるというのが私の考えです。(ではその「個性」とは何か、というのは劇中で語られることですし、もしもっと厳密な精緻化が必要ならば甘粕試金氏の論稿を全部読んでください。)

 そしてこのアンセムみは、2ndシーズン前半OP「STARDOM!」においてさらに増します。
 「願いは負けたりしない/本気の君を待ってる」、「わたしはここだよ」、「きれいな物だけ 見るんじゃなくて 全部抱きしめて」などの歌詞は、これまでの各人の歩みと苦悩、それでも顔を上げて歩み続け、ついにはそれぞれに何かしらの「結果」を得たことを思い起こさせられます。(ヘンな日本語ですね。まあいいや)
 特に、「きれいな物だけ 見るんじゃなくて 全部抱きしめて」は、37話以降あまり触れられることのなくなったゆめの「謎のチカラ」を巡るいろいろが想起されます。
 また、一番の歌詞「過去から未来へ 縫い合わせたドレス/フリルの数だけ 勇気を持てたなら…」と、二番の歌詞「根拠のない自信をカードに詰め込んで/奏でる音色は生き様」は白眉ですね。
 ズ!の凄みの一つは、「ブランドのトップデザイナー」という「大人」を廃したところにあります。ズ!においてアイドルたちは、「グリッター」という有限の資源を消費しながら、自らドレスをデザインします。
 ア!では「アイドルの努力→トップデザイナーの承認・ドレスの授与→ステージの成功」というプロセスが標準的で、これはごくごく平たくすると、子どもの努力を大人が認め、「社会化」が順調に達成される、という構図です。5
 しかしズ!ではアイドルを認めるトップデザイナーがいない、すなわち子どもを承認してくれる大人がいないのです。学園長も先生たちも、生徒たちになんらかの示唆をすることはできても、「正解」が分からないので「承認」はできません(賞賛はもちろんできますが)。となると当然、彼女たちの「社会化」が成功するかどうかは、社会に飛び出してみる=ステージに立ってみるまで分からないのです。6
 歌詞に出てくる「ドレス」と「カード」は、そのままイコールで、アイドル一人ひとりが「賭け」に出るための、まさに「手札」(カード)なのです。だからこそ、そのカードで賭けに出たステージで「奏でる音色は生き様」ですね。

 この「賭け」に飛び込む博徒たち。
 ズ!のテーマに沿って換言するならば、自分の「個性」を定めたアイドルたち。
 「STARDOM!」はそんな彼女たちの姿を高らかに歌い上げるアンセム(賛歌)ですね。

 私は未だにこの「STARDOM!」を聴いては、これまでのアイドルたちの歩みを思い出して泣き、あるいは自分だけの脳内PVを思い描いては泣き、という調子で、アンセムみを堪能していました。あまりの歓びに、76話でOPが変わるであろうことさえ意識の外にありました。

 そんな私は、実は74話のRainbow Berry Parfait発足回で疲れ果ててしまい、しばらく放送を追っていませんでした。そして本放送が76話を過ぎ、新OP/EDのCDが発売され、twitterのタイムラインに新曲の情報が載るようになったとき、私は新曲の中身より先に、タイトルを文字列として知りました。
 しかし、私はもう文字列だけで既に歓喜でひっくり返りそうでした。

 新OPのタイトルは「MUSIC of DREAM!!!」。私が驚愕したのは、「MUSIC of DREAM」の部分ではありません。「!!!」の部分です。7

 OP曲たちのタイトルを振り返ってみましょう。
 「スタートライン!」
 「1,2,Sing for You!」
 「スタージェット!」
 「STARDOM!」

 そして「MUSIC of DREAM!!!」ですね。

 そう、ズ!のOP曲には常に感嘆符が使われてきました。

 当たり前ですが、通常、感嘆符を連ねるのはナンセンスなことです。例えばトニー・ジャー主演の映画『マッハ!!!!!!!!』という題名のアホらしさときたら。(もちろん、内容や題名の疾走感は大好きですし、私はこれを辞書登録しています)
 思い返せば、アイカツ!シリーズの楽曲において、感嘆符が連ねられることはほとんどありませんでした。ア!の「Du-Du-Wa DO IT!!」だけが例外的ですが、ズ!に限れば一曲もありません。

 それがここに来て、「MUSIC of DREAM!!!」と、感嘆符を3つ重ねてきている。
 もうこのタイトルだけで、とんでもねえアンセムが来るに決まってるわけですよ。

 そして実際の楽曲の中身は……というのは、いろんな方が書いていますし、まあ私の言いたいことはこの辺でもう十分です。みんながどうか知らないけど私は満足しました。

 というわけで、実際に聴いてください。
 で、なにか感ずるところがあれば、あなたも記事を書いてみてください。
 アディオス!


 

~脚注など~

[1]:まあこのブログの時間はアイカツ!第12話から141話・149話に飛び、そこで止まっているわけですが。

[2]:言わずもがなですが、1stシーズンにおいて、ハイタッチはゆめとローラの友情の象徴として機能していました。第29話「本当のライバル」の友情の不完全な再構築からひと月以上が経過し、ここでやっとハイタッチです。こういうところで、私はズ!の時間の使い方の贅沢さというか、豊かさに感服するわけです。

[3]:ご存知の通り、アイカツシリーズの楽曲において、キャラクターと楽曲はいわゆる「キャラソン」のようにピッタリと対応するものではありません。美月さんの歌である「Move on now!」をいちごたちが歌ったり、リサっぺが歌ったりすることに意味が生じたり、逆に「輝きのエチュード」はいちごのために作られたことに意味があるように。まあ、ここでは「スパルタンXは三沢のテーマ」くらいの意味で読んでください。

[4]:『アイカツスターズ!』という複数形のタイトルを持つこの作品、その1stシーズンにおいて、STARS!といえば、第一義的にはまあS4のことですよね?二義的には個性を持って輝く(S4以外の)アイドルたち、となりましょうか。

[5]:この「社会化」は社会学の文脈で用いられる意味です。本当は社会学辞典から引くべきなのですが、とりあえずここでは「子どもが相互作用を受けながら社会的動物としての人間になっていく過程」くらいに読んでください。「悪いこと」をして「怒られる」、「良いこと」をして「褒められる」…という過程を経て、我々は「善悪」を学び、「分別ある大人」になる。

[6]:氷上スミレがスターライトクイーンカップのあの舞台に立ったことは、この意味で、ア!において異質でありながら、ア!をズ!に向けて開いた唯一無二の試みなのです。

[7]:ところで、楽曲タイトルの大文字小文字についても私は以前Twitterで考えていました。例えばア!の最重要テーマ「SHINING LINE*」は全て大文字で構成されています。憧れのバトンとでもいうべきモチーフとしてのSHINING LINE*はア!の大テーマでしたし、楽曲としての「SHINING LINE*」はアイカツ8や『劇場版アイカツ!』冒頭でスターライトの8人たちによって歌われたように、多くの登場人物のテーマ曲でありました。しかし、ズ!のS4のテーマ曲である「episode solo」は全て小文字で構成されています。歴史学などにおいて「大文字の」と言えば固有名詞や歴史的出来事、権威付けされた事物などを指し、逆に「小文字の」と言えば民衆史や個人史、「些末な」事物を意味します。
 同様に考えると、ズ!のOP曲のタイトルも何かこう、示唆するところがありますね。「スタートライン!」、「1,2,Sing for You!」、「スタージェット!」と、カタカナ、通常の文法が来て、2ndシーズンの「STARDOM!」ではついに全て大文字になった。彼女たちは「大文字の」歴史的な存在になりつつあるのかもしれません。

 補足:私は音楽知識はほとんどなく、音楽ジャンルなんて「これはロック」、「これはロックじゃない」の主観的な二分法でしか語れませんが、脚注と自分のための備忘なので越権行為をします。
 「スタートライン!」はヴァイオリンなどの弦楽器が目立つ、ちょっと高貴な(?)感じの曲です。
 「1,2,Sing for You!」はギター(ああ、直前にヴァイオリン等を指して弦楽器と書いている。音楽知識がないと適切な言い分けもできない)とドラムの目立つスタンダードな4つ打ちロックっぽい曲です。
 「スタージェット!」はピアノが印象的に使われるピアノロックですね。
 そして「STARDOM!」、この曲がどういう楽器のどんな曲と言い表すのは、私にはもうできません。
 「MUSIC of DREAM!!!」は分かりますよ、全部乗せです。のせのせマシマシね。冒頭が学校チャイムと類似なのは意味があるのでしょうか?

 補足2:私が人生で初めて「アンセム」というものを意識したのはこの曲でした。
 「DYING ANTHEMS」海老倉ダン☆/カン★オリジナル曲
 ニコニコ動画の曲ですから、聴くのは面倒かもしれませんが、よかったら聴いてください。いや、よかったらというかよくなくても聴いてください。

 補足3(2017年11月7日追記):この記事書くか~と思ったきっかけの一つです。
 君は光るダイヤモンド「【AS!】MUSIC of DREAM!!!が理性を揺るがす
 












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