2017年7月3日月曜日

飽きたら終わりだ!アイカツ!感想。第9話「Move on Now!」

第9話「Move on Now!」


 いちご、あおい、蘭の三人が受けると決めた“スペシャルオーディション”とは、スターライト学園が定期的に開く、生徒の成長を判定するためのオーディション、いわば自主的に参加する定期試験だ。個人のセンス・パフォーマンスのほどが採点されるのはもちろん、ユニットとしてふさわしい協調を見せられるかも判定される。アイドルは必ず二人以上でユニットを組んで参加するのはそのためだ。
 スペシャルオーディションは、ひとかどのアイドルとして名を成す大前提でもある。それだけに、合格にはプレミアムドレスの着用がほぼ必須である。プレミアムドレスのアイカツカード(“プレミアムレアカード”)は、各ブランドのトップデザイナーに認められたアイドルでなければ手に入れることができない。すなわち、知名度と、ブランドの方向性に合わせて自らのカラーをセルフプロデュースする能力が必要となる。もちろん、不正を防ぐために、プレミアムドレスは手渡しでないと授受できないことになっている。
 つまるところ、スペシャルオーディションには、個人のパフォーマンス、デザイナーからの承認の証としてのプレミアムドレス、仲間とのチームワークの三つを備えて、高い次元で調和させ、本番で披露することが必要なのだ。それを達成し、合格した者は、“歌の心得”をもらえる。“心得”とは、そのアイドルの能力が一定の水準に達した時に学園から授与される証である。「歌の心得」以外にもいくつかあり、それを複数保有しているということは、単純にその能力の高さと、幅広さの証となる。
 もちろん、これらは神崎美月も通った道のりだ。


 本番に向けて、蘭の指導のもと三人で毎日特訓。ついでにチームワークを高めるべく仲を深めようと、円陣を組もうとしたり、蘭に下の名前で呼ばせようとするいちご――いつも蘭はいちごを「あんた」と呼ぶのだ。ごまかしついでに、プレミアムドレスの話を出す蘭。ヒカリのメールにもあったように、本番までにプレミアムドレスを用意したい。トップデザイナーと連絡を取るのは、アイドルが直接できるようなことではない。ジョニー先生に頼み、学園経由でアポイントメントを取ってもらうことになる。

 アポが取れるまで連絡待ち。課題曲を三人で決める。これはいちごの希望で「Move on Now」となる。神崎美月のために作られた歌であり、いちごが初めて観た美月のライブの曲でもある。いちごとあおいにとって、特別な歌なのだ。蘭もそれで良いという。よろこぶいちご、抱きつかれそうになる蘭。
 「や、やめろって!ほら特訓!歌も決まったし特訓だ!」
 「うん、なんでもやる!」
 「私も!」
 「……言ったな?」
  いちあおしごき!鬼と化した蘭!

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 ダンスレッスン、ランニング、スクワット、ベンチプレス、 水泳……できることはすべてやりながら、オーディション前日。蘭はまだ「あんた」としか呼ばないが、三人の息もだいぶ合ってきた。一定以上レッスンを重ねると、習熟曲線は平坦になる。研ぎ澄まされたカミソリはそれ以上研いでもよくはならず、逆になまくら――人間なら、過度なレッスンはケガのもと――になってしまう。
 三人は休憩がてらスターライト図書館で各ブランドについて調べることにした。ついてみると、クラスメイトでアイドルの先輩ユニット、“SpLasH!”が、間違えてコピーしすぎたという資料をくれた。そのときジョニー先生が、フューチャリングガールとスパイシーアゲハのトップデザイナーの都合が付いたと伝えに来た。慌てて出かけるあおいと蘭。残ったいちごは居室でブランドの資料を読みながら待った。エンジェリーシュガーの誕生は180年前にさかのぼり、その工房は浮世絵にも描かれている。その絵を見ながら、江戸時代のエンジェリーシュガーがどんな衣装を作っていたのか、思い描くうちに、いちごは眠りに落ちた。

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 オーディション当日も、午前中いっぱい三人でダンスレッスンをして過ごした。もはやいちごのプレミアムドレスは間に合わないと想定し、その場合はあおいと蘭も普通の衣装で参加するつもりでいた。
 と、ジョニー先生がレッスンルームに駆け込んできた。エンジェリーシュガーのトップデザイナーが、今からなら会えるという。しかし、三人のオーディションは17時開始。都心部に本社ビルを構えるフューチャリングガールやエンジェリーシュガーと違い、東京市部に工房を持つエンジェリーシュガーは交通事情が悪すぎる。やはり間に合いそうにない、と引き留める二人だが、いちごはあくまで行くと言う。二人が得たドレスは二人の努力の証、それを自分のせいで無駄にしたくないと。
 いちごの決意を見たジョニー先生が車を飛ばしてエンジェリーシュガーの工房の近くまで連れていってくれる。正門前で停車した。ここより先は、勾配が急で森も深く、車は進めない。
 降車して駆け出すいちご。アイカツフォンでGPS地図を見ながら森を往くが、折悪しく充電が切れてしまう。学生鞄に入れておいた浮世絵を頼りに森を抜けると、視界に現れたのは切り立った崖!工房はこの崖の上だった。

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 「工房があるのは山の頂上?まさか山登りか?」
 「ううん、今は高速エレベーターがあるって」
 「だよな」
 あおいと蘭は楽屋でいちごを待っている。時間は厳守。いちごが戻らなければ、二人だけでステージに立つことになる。それでも二人は待った。いちごはきっと戻ってくると信じて。
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 あおいと蘭の心配をよそに、いちごは崖を登っていた。回り道をしている余裕はなかったし、高速エレベーターの存在も知らない。もはや前に進むしかなかった。
 

 幸運なことに、ここ数日晴れ続きで足場は悪くなかった。一歩一歩着実に、四肢を踏ん張って登っていく。横風にあおられ、下を見ると、もうずいぶん登っていた。一歩間違えたら、大けがでは済まないだろう。ただ、ベンチプレスで上半身を鍛えていたのは不幸中の幸いだった。

 息も絶え絶えに崖を登り切ると、ちょうど植え込みを狩っていた庭師のおじさんがいちごに気づき、引き上げてくれた。そのままトップデザイナーのもとへ通される。待っていたのは、老いてなおかわいらしい雰囲気を全身から漂わせるいなせなおばあちゃん、天羽あすかだった。

 天羽あすかは、面会がギリギリになったことを詫びると、いちごを工房へと案内した。そこで天羽あすかは自らの信念を語った。エンジェリーシュガーは、エンジェルのように、少女の力になれるドレス作りを目指している。しかし天使はきっと、輝くために頑張っている人の前にしか現れない。
 天羽は、いちごならエンジェリーシュガーのプレミアムドレスにふさわしいと言う。
 「だってあの崖、ぶっちゃけ死にかねない☆」
 そしてつい最近できあがった新作、“オーロラキスコーデ”をいちごに託した。

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 SpLasH!のステージが終わり、あおいと蘭はもうフィッティングルームの前の控室で待機していた。開始1分前、そこにいちごがついに到着する。蘭としては本番ギリギリまでダンスを合わせたかったところだが、いちごは不安には思わなかった。二人は自分を信じて今まで待ってくれた。お互いを信じ合っていれば、きっと大丈夫。そう告げ、三人でステージに立てることを喜びながら、円陣を組む。
 アイドルは本番前、自分たちだけの掛け声をかけるものだと、あおいが提案した。
 「あんたが……いちごが決めな」
 蘭が照れながらも名前で呼んでくれたことに満足しながら、いちごは音頭を取った。

 「明日へ向かって、Move on Now!」

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 いちご、あおい、蘭、そしてSpLasH!。この五人は無事合格。達成感と疲れから、みなその夜はすぐに寝入ってしまった。しかしいちごだけは、興奮が冷めずまた夜の学園を歩いていた。すると、またしても神崎美月がいちごの前に現れた。
 美月は自分の歌――Move on Now――を、ステージの上で三人がものにしていたことに賛辞を送った。だが、歌の心得はあくまでスタートラインで、心得はあと五つあるとも告げる。

 美月が去り、またひとりになったいちごは、なんとはなしに星空を見上げた。
 「美月さんには、まだまだ遠い……」

*****

【総論】
 いちご、あおい、蘭の絆が、ようやく一定水準に達した、という回でした。もちろん、個々人の技量も、各ブランドのトップデザイナーに認められる水準に達しています。とはいえ、それはアイカツ界のトップを目指すようなアイドルにとっては、スタートラインでしかないのですが。“心得”は全部で6つ。他にどのような試練が彼女たちを待ち受けているのでしょうか。

 この第9話の崖登りは、放送当時かなり話題になったと記憶しています。 同じくらいイカレた出来事が12話でも起こるので、楽しみにしてください。

【今日の美しき刃】


 「プレミアムレアカードを手に入れるには、あいつに頼まないとな……」と、ジョニー先生をあいつ呼ばわりする紫吹蘭。代名詞を多用するのは、蘭の人間関係に関するクールさを端的に表している。


ん?いまなんでもやるって言ったよね
「鬼コーチじゃなくて……」「鬼……?」

 あと、蘭が食堂で何を食べてるのか写らないのも着眼点。蘭はあまり食事を取るところが描写されない。ただ、これについては、既に優れた論稿があるので、ここで筆者が贅言を費やすことは避けます。
 「『アイカツ!』における食育表現」(50話までの内容を含む)

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